今は個人でエアコンの設置工事とかメインでやってるんですけど、近いうちに会社作って、建設業の許可も取ろうと思ってるんですよ。
そういう場合って、いつから社会保険に入ればいいんですかね?
今は労災とか入ってます?
まだ個人なんで、何も入ってないですよ。
車の任意保険とかは関係ないですよね?
いやあ。任意保険は社会保険に入らないですね。
労災とか雇用保険とかなんですけど、それも入ってないですか?
ないですね。
……やっぱりまずいですか?
場合によっては、まずいかもしれませんね。
いくつか確認させてもらいたいんですけど、抱えてる職人さんています?
ええ。若い衆が2人いますよ。
あと、カミさんが帳簿付けたりしてますね。
なんか、青色申告会に言われて登録しましたよ。
専従者ってやつですかね?
ああ、そうそう。
税金が安くなるんですよね?
まあ、そんな感じですね。
そうなると、奥さんは月給みたいな感じだと思うんですけど、職人さんたちの給料って、どうなってます?
日給月給でやってもらってますね。
週2日とか3日じゃないですよね?
まあ、5か6ですね。
なるほど。
あと、元請工事ってやります?
リフォーム屋さんとか電気屋さんとかからじゃなくて、施主さんから直接請けるやつ。
うーん、施主さんから直接っていうのは、年に数件ですかね。
なるほどなるほど。だいたいわかりました。
そうですね……労災保険と雇用保険は入らないとまずいですかね。
年金とかはいいんですか?
ええ。厚生年金と健康保険は、まだ入らなくても平気そうですね。
でも、せっかくなんで、一通り説明しちゃいますね。会社作る予定もあるみたいですし。
ああ、お願いしますわ。
目次
社会保険の種類
労災保険(労働者災害補償保険)
まずは労災ですね。
これはまあ、知ってると思いますけど、仕事でケガしたときなんかに出る保険です。
塗装屋さんとかだと薬品で病気になることなんかもあるみたいで、そういうのも含めて「労働災害」って言うんですね。
その労働災害が起きたときに治療費とかが出るものなんですけど、これには通勤中の事故も含まれるんですよね。
通勤中でもいいんですね。
ええ。
例えば、電車通勤の人が駅の階段から落ちて骨折したら、それは立派な労災でしょうね。まあ、立派っていうのも変ですけど。
へえ。
若いころはよく「ケガと弁当は自分持ち」って言われましたけどね。
まあ、あれは「ケガしないように注意しろよ」って意味もあったんでしょうけどね。
でも、現場でケガしたのに労基署に報告しないで、自分で病院代を払わせちゃうと、いわゆる「労災隠し」ってやつになっちゃいますからね。
じゃあ、うちみたいに労災入ってない場合はどうなるんですか?
労災の場合、入ってなくても事業主が治療費とか払わないといけないんですよ。
というより、そもそも仕事が原因で労働者がケガとか病気をしたら事業主が面倒見ないといけないんですけど、それだと負担が大きいんで保険を掛けておく仕組みなんですね。
じゃあ、「いざというときは自分で払うよ」ってことにすればいいんですかね?
いやいや、それだと万が一払えなかった場合に労働者が泣くことになっちゃうんで、労働者がいるんだったら、絶対に入らないといけないんですね。
そうなんですね。
雇用保険
次は雇用保険ですね。
「失業保険」なんて呼ばれることもありますけど、仕事探しをしているときに出るのが有名ですよね。
ああ、若いころに友だちがもらってましたよ。
あとは育児休業とか介護休業をしているときにもらえるお金なんかも、雇用保険から出ますね。
へえ。
うちの親もそのうち介護することになりそうだし、やっぱり入っておいたほうがいいんですね。
あ、事業主は雇用保険に入れないんですよ。
え? そうなんですか?
労災保険と雇用保険を合わせて「労働保険」て言うんですけど、その名のとおり労働者のための保険なんで、個人事業主とか会社の役員とかは対象外になっちゃうんですよね。
あと、事業主の家族なんかも、基本的には入れないですね。
厳しいすね……。
まあ、育児休業とかの場合、「労働者は自由に休めないから」っていう理屈なんでしょうけど、事業主だって勝手に休めるわけじゃないですからね。
生活できなくなっちゃいますって。
ですよね。
まあ、でも、労働保険については、基本的には労働者のための制度だと思ってください。
了解です。
あとは、労働保険以外の健康保険と介護保険と厚生年金ですけど、この3つを狭い意味での社会保険てことで、「狭義の社会保険」なんて言ったりします。
まあ、単純に「社会保険」て言う場合も多いんですけど、続けてそっちも説明しておきますね。
ええ。
健康保険
まずは健康保険ですけど、これはやっぱり、病院の治療費とかが3割になるやつが有名ですよね。
「ケガとか病気の原因が仕事じゃない」っていうのがポイントになります。
ああ、仕事のケガなら労災ですもんね。
そうです、そうです。
ちなみに、労災だと治療費タダになりますけど、こっちは原則3割負担です。
そういえば、国保(国民健康保険)も3割ですよね?
そうなんですよ。
前は社会保険だと2割の負担で済んだんですけどね。もっと前は1割のころもあったみたいです。
でも、だんだん増えてきて、今は国保と同じ(負担割合)なんですよ。
じゃあ、無理して入らなくてもいいんじゃないですか?
いやあ、そういうことじゃないんですよね。
会社にするとか従業員が5名以上になるとか、そういう条件に当てはまったら、入るのが義務になってるんです。
まあ、国保にはないサービスというか、社会保険に入ってないともらえないようなお金もあるので、従業員のためにはなりますよね。
ああ、そうか。
介護保険
次に介護保険ですけど、これは文字通り介護サービスを受けるときの負担が減ります。
まだまだ先の話でしょうけどね。
まあ、たいていの人はそうですよね。仕事でケガして介護状態になったときは、労災がカバーしてくれますし。
ちなみに、介護保険に入るのは40歳以上の人なんですけど、64歳までは健康保険とセットになっているイメージです。
へえ。
なので、とくに加入の手続きとかは必要じゃなくて、40歳になったら自動的に保険料が少し高くなるんですよ。
それで、65歳になったらまた健康保険だけになって、介護保険料は年金から引かれたり口座から引き落とされたりするようになるわけです。
じゃあ、もうちょっとしたらオレも払わないといけないのか。
ますます入りたくなくなってきますね。
あ、社会保険に入ってなくても、介護保険料は市町村に払うことになるんで、そこはあんまり気にしなくていいと思いますよ。
ああ、そうなんですね……。
厚生年金保険
最後に厚生年金ですね。
「年金」ていうと老後にもらうイメージですけど、あれは「老齢年金」というやつなんですね。
それで、他には「障害年金」と「遺族年金」というのがあります。
ああ、障害年金は聞いたことありますね。
遺族年金っていうのは、死んだらもらえるんですか?
ですね。
まあ、もらうのは残された家族ですけど。
ああ、そうか。
国民年金も「老齢」「障害」「遺族」の3つがそろっているんですけど、どれも厚生年金のほうが手厚いんですよ。もらえるお金が多かったり、あとは厚生年金でないとまったく出ないようなケースもありますし。
へえ。
国民年金に上乗せしているイメージですかね。その分、保険料も高いですけど。
なるほど。
保険の内容はこんな感じですけど、続けてどういう場合に入らないといけないのか説明させてもらいますね。
ええ。お願いします。
社会保険の適用と対象者
労災保険の成立と対象者
まず労災の場合ですけど、これは「何人雇っているか」とか「雇ってる人が何時間働いているか」とか関係なく、人を雇うんだったら入らないといけないんですね。
まあ、農業とかだと例外もあるんですけど、建設業は入らないとダメです。
なるほど。
あ、でも建設業の場合は、現場の労災は基本的に元請がまとめて入ることになってます。工事現場に丸々保険を掛けるイメージなんですけど、そこで事故があったら、一番上の元請の労災を使うんですね。
なので、下請工事しかしない業者さんなら、現場労災は入らない可能性もあります。
ああ、だから元請の工事があるか聞いたんですね。
ええ。
でも、年に数件でも元請工事があるんだったら、やっぱり労災に入らないといけないんですね。
ただ、保険料はそれほどでもないと思いますけど。
そうじゃないと困りますよ。
あ、あと、さっき言ったように事業主と家族は労働者にならないので、一人親方とか家族経営の場合なんかですと、労災に入らないこともありますよ。というより、普通の労災には入れないんですね。
これは会社になっても同じですけど。
え?
じゃあ、オレとカミさんはケガしても労災出ないの?
まあ、普通の労災には入れないんですけど、「特別加入」っていうのがありますんで、そこはまた後で考えてみましょう。
ちなみに、奥さん……というか、家族以外の人が事務をやるようになったら、現場の労災だけじゃなくて事務所の労災にも入る必要が出てきますよ。
まあ、今のところ予定ないですけど、そうなったらまた相談しますよ。
ええ。
雇用保険の成立と対象者
次に雇用保険の場合ですけど、こちらは「週に20時間以上働く人がいること」が条件になってるんですね。
まあ、週5か6で働いてもらってるんで、20時間は余裕で超えますよ。
でしょうね。
パートさんしかいないところなんかだと、入らない可能性もあるんですけど。
あと、事業主と家族が対象にならないのは労災と同じなんですけど、雇用保険には「特別加入」がないんですね。
うーん。
まあ、さっきも言ったように労働者のための保険ですからね。
でも、健康保険とか年金とかの社会保険は、労働者だけでなく経営者も対象になる場合があるんですよ。
へえ、じゃあ、オレらも入れるんですか?
ええ。場合によっては。
じゃあ、そのへんも含めて、どんな場合に社会保険に入るのか、もうちょっと詳しく説明しておきますね。
ああ、ぜひ。
社会保険の対象者と加入の条件
社会保険に入らなくちゃいけない条件は健康保険と厚生年金で共通してて、会社とかの法人だったら、社長一人だけでも強制加入になるんですね。
雇ってる人数は関係ないんだ?
そうなんですよ。
ただ、個人事業主の場合は、従業員が4名以下なら、強制じゃないんですね。
じゃあ、うちの場合はギリギリですね。
あ、いえ、「従業員」なんで、この場合も事業主と奥さんは数に入れないんですよ。
なので今は2名だけですね。
ああ、そうなんですね。
社会保険にも入れてくれないのか……。
あ、個人事業主のままだと入れないですけど、会社にすれば社長も社会保険に入れますよ。というより、さっきも言ったとおり、社長一人でも社会保険に入らないといけないんですけど。
ああ、そうか。ややこしいですね。
カミさんも入れるんですか?
従業員になってもらうんだったら、週に30時間くらい働くかどうかが目安ですかね。
あと、常勤の役員になってもらう手もあります。
逆に働いてもらう時間を少なくして、社長の扶養家族にしちゃう手もありますね。
なるほど。
そのへんも考えないとな……。
ええ。
税金のこととかもあるので、税理士さんとも相談しながら考えていくのがいいでしょうね。
了解です。
まとめ
まとめるとこんな感じですかね。
今は個人で従業員1〜4人のところなので、労災と雇用保険に入る必要があるんですね。
ちなみに、「任意適用」っていって、5人いなくても社会保険に入ることできますよ。
いやあ、まだいいですよ。お金かかりそうだし。
まあ、そうですよね。
会社だと社会保険に入らなきゃいけないからって、わざわざ個人事業主に戻す人もいるみたいですから。
へえ、そんなに厳しいんですか。
だいたい、どれくらいかかるもんなんです?
ざっくりですけど、給料にプラスして15パーセントくらいだと思っておいてください。
年収400万円の人を雇っていたら、プラス60万円くらいかかるイメージですね。
おお、けっこうしますね。
今日は時間がないんで、そのへんのことはまた今度、詳しく教えてくださいよ。
了解しました。
また後で連絡しますね。
補足
労災に入らなくていいような場合もあるんですね。
ええ。
まず、個人の農林漁業に「暫定任意適用事業」というのがあって、これは労災と雇用保険でちょっと条件が違うんですけど、正直、私は関わったことないです。
まあ、八王子だとあんまりないケースでしょうからね。
ええ。
なのでそちらは置いておいて、建設業の話になるんですけど、こちらもちょっと特殊でして、現場で起きた労働災害については、たとえ下請業者の職人さんがケガをした場合でも、元請業者の労災が適用されるんですね。
なんで、下請工事しかやらない建設業者だったら、労災に入る必要はない……というか、現場に関しては労災保険を成立させることができないんですよ。
へえ。
ただ、下請の事業主には適用されないので、特別加入というやつが必要になるんですね。
なるほど。
ところで、社会保険は5人未満なら任意ってことでしたけど、たしか行政書士の事務所は5人以上でも大丈夫なんですよね?
ええ。社労士事務所も同じ括りですね。
「個人経営でも常時5人以上の従業員がいたら社保強制加入」の事業所って、健康保険法と厚生年金保険法で決められてるんですよ。
健康保険法 第3条(定義) 第3項
この法律において「適用事業所」とは、次の各号のいずれかに該当する事業所をいう。
一 次に掲げる事業の事業所であって、常時五人以上の従業員を使用するもの
イ 物の製造、加工、選別、包装、修理又は解体の事業
ロ 土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体又はその準備の事業
ハ 鉱物の採掘又は採取の事業
ニ 電気又は動力の発生、伝導又は供給の事業
ホ 貨物又は旅客の運送の事業
ヘ 貨物積卸しの事業
ト 焼却、清掃又はとさつの事業
チ 物の販売又は配給の事業
リ 金融又は保険の事業
ヌ 物の保管又は賃貸の事業
ル 媒介周旋の事業
ヲ 集金、案内又は広告の事業
ワ 教育、研究又は調査の事業
カ 疾病の治療、助産その他医療の事業
ヨ 通信又は報道の事業
タ 社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)に定める社会福祉事業及び更生保護事業法(平成七年法律第八十六号)に定める更生保護事業
二 略
厚生年金保険法の6条1項が同じ内容なんですけど、土木・建築業は2番目に挙げられてますよね。
たしかに。
この書き方からすると、建設業者で対象外になるケースは、ちょっと思いつかないですね。
ですよね。
これに対してサービス業はわりと限定されているんで、我々士業だけでなくて、飲食とか理美容とかの人たちなんかも、個人経営だったら従業員5名以上でも任意適用になるんですよ。
なるほど。
そういうのもあって、法人から個人事業主に戻る「個人成り」みたいな話が出てくるんですね。
そうなんでしょうね。