この前の説明で社会保険に入る気にはなってるんですけど、入ったときのメリットについて、もうちょっと詳しく教えてもらえますかね?
ええ。
従業員さんにも納得してもらわなきゃいけないでしょうから、まずはそっちから説明しますね。
お願いします。
目次
従業員から見たメリット
社会保険に加入している人だけが受けられる給付
まずは健康保険からいきますね。
ええ。
傷病手当金
病院とかで窓口負担が3割になるのは、国保(国民健康保険)でも同じっていう話はしましたよね。
あと、高額療養費っていって、1か月の医療費が上限を超えない制度があるんですけど、これも国保とだいたい同じだと思って大丈夫です。
上限て、いくらくらいなんですか?
収入によるんですけど、よく「100万円かかっても9万円くらいで済む」みたいな数字で説明されますね。
でも、「治療費が何千万もかかるから……」みたいな話もあるじゃないですか。
ああいうのは保険がきかない治療の話でしょうね。
海外で手術受ける場合なんかは旅費もかかりますし。
なるほど。
あとは、入院したときに個室を選んだ場合なんかも、保険がきかないので高額になることがあるでしょうね。
でも、そういうのでなければ、負担がある程度に抑えらるようになってるんですよ。
へえ。
で、それは国保でも大丈夫だと。
そうなんです。
これに対して「傷病手当金」ていうのがあって、病気やケガで仕事を休んだときにお金がもらえる制度があるんですね。これは国保にはない仕組みです。
へえ。
いくらくらいもらえるんですか?
給料のだいたい3分の2ですね。
1か月分の給料ですか?
いや、日割りで計算して、休んだ日数……というか、給料をもらえなかった日数分だけもらえるんです。
あと、最初の3日は「待機」ってことで、傷病手当金が出るのは4日目からですね。
へえ。
でも、休んでたらずっともらえる、ってわけじゃないでしょ?
そうですね。
もらい始めてから1年6か月で終了です。
そんなに休まれても困りますけどね。
まあ、休業1年くらいで退職って決めてる会社もありますね。
でも、傷病手当金は退職しても出るんで、働いている人にとってはかなり助かる制度だと思いますよ。
たしかに。
ちなみに、仕事でケガした場合なんかは労災保険で休業補償給付っていうのが出るんですけど、こっちはだいたい賃金の8割です。
労災のほうがもらえるんですね。
ええ。
ただ、休みの日にケガした場合とか、仕事と関係ない病気になった場合なんかだと労災は出ないんで、この傷病手当金が大きいんですよね。
なるほどねえ。
出産手当金
あとですね、これは女性限定なんですけど、出産手当金ていって、産前産後に会社休んだらもらえるお金があるんですよ。
あれ?
うちは国保だけど、カミさんが子ども産んだときにけっこうお金もらいましたよ。
それって、産婦人科にお金払うときに40万円くらい引いてもらえるやつじゃないですか?
ああ、そうそう。
たしかそれくらい安くなりましたよ。
それは出産育児一時金ていって、国保にもある制度なんですね。
出産て病気じゃないんで、さっきの高額療養費も対象外なんですけど、別の仕組みで負担が軽くなるんですね。
ああ、そういうことか。
ホントにややこしいですね。
そうなんですよね。
で、出産手当金ていうのは、傷病手当金と似たような感じで、産前産後に会社を休んで給料をもらえなかったら、健康保険からお金をもらえる仕組みなんですね。
どれくらい出るんですか?
金額は傷病手当金と同じで3分の2ですね。
期間は産前42日と産後56日です。
ちなみに、双子以上だと産前98日になりますけど、産後は同じく56日ですね。
双子は育てるのも大変そうですけどね。
まあ、あくまでも出産に対する手当なんで、そこは関係ないみたいですね。
かといって、育休も双子が優遇されるわけじゃないんですけど。
そういえば、育休のときって、給料ってどうなるんですか?
育児休業給付金
それはですねえ、育児休業給付金ていって、雇用保険からお金が出るんで、会社は給料払わなくても大丈夫なんですね。
へえ。そうなんですね。
生まれて56日で産休が終わるので、そこから育休に入るんですけど、最初の半年はやっぱり3分の2くらいもらえるんですね。
まあ、計算方法が違うので、微妙に違う金額になりますけど。
へえ。
で、6か月以降は2分の1になって、基本的には子どもが1歳になるまでなんですけど、そこで保育園に入れないとかの事情があって職場に復帰できなかったら、最長で2歳までもらえるんですね。
じゃあ、その間は給料払わなくてもいいんですね。
ええ。
しかもですね、産休と育休の間は、社会保険料がかからないんですね。
なんで、3分の2でも手取りは8割くらいになるんですよ。
もちろん会社負担分もないので、そこはかなり助かりますよね。
それはありがたいですね。
ちなみに、傷病手当金のほうは社会保険料かかっちゃうんで、そこはつらいところですね。
あと、育休に似た制度で介護休業でも3か月ほど給付金がもらえるんですけど、こちらも社会保険料はかかっちゃいますね。
なるほどねえ。
まあ、うちは男だけなんで、出産とかはあんまり関係なさそうですけど。
社員のカミさんじゃダメなんでしょ?
ええ。
あくまでも従業員本人が出産や育児で仕事を休むときの補助ですから。
なんで、育休のほうは男の人でも出るんですよ。
ああ、イクメンてやつすね。
うちのやつらには縁がなさそうだな……
まあ、そのうち女性の事務員さんとか雇うかもしれないじゃないですか。
そこまで大きくできればいいですけど。
まあ、そこまで見込んでの社会保険加入って考えましょうよ。
ともかく、社会保険に入ってないと受けられないものとしては、このへんが代表的なものですかね。
社会保険に加入していると上乗せされる給付等
あと、社会保険に入ってない人と比べて手厚くなるのは、だいたい年金関係ですかね。
ああ、国民年金だとあんまりもらえないって話ですもんね。
ですね。
今は40年間フルで納めたとして、老後にもらえるのは年に80万円弱なんですよ。
月額にしたら6万5千円くらいですね。
40年でそれだけですか!
なんかばかばかしいですね。
まあ、でも、10年くらいで元が取れる計算なんですよ。
なんで、65歳からもらい始めたとしても、75歳より長生きすれば損じゃないかと。
年金払っている分だけ税金も少し安くなりますし。
でも6万5千円じゃなあ……
なので厚生年金で上乗せしておかないと、老後がつらいんですよね。
そういうことか……
どれくらい増えるんですか?
それは報酬次第ですねえ。
高給取りだと年金の保険料も高くなりますけど、老後にもらえるお金はそれだけ増えますから。
あと、社会保険に入ってる会社で働いてるときしか納めないので、その期間によっても差が出てきますし。
ああ、そうか。
ちなみに、従業員の場合は会社が半分負担してくれるので、自分が納める分だけで考えたら、国民年金より早めに元が取れる計算みたいですよ。
会社の分も入れたら?
そうすると、10年以上かかっちゃうみたいです。
なので、不満に思ってる社長さんとかもいるみたいですけど、会社の負担分は経費になるんで、そのへんは考えようですかね。
まあ、しょうがないんでしょうね。
で、今のは老後にもらう老齢年金の話なんですけど、残りの障害年金と遺族年金も、やっぱり厚生年金だと上乗せされるようになってるんですね。
へえ。
あと、障害3級で出るのは厚生年金だけですし、遺族年金も国民年金よりもらえる人の範囲が広いんですよ。
なるほど。
それなりにメリットはあるんですねえ。
ええ。
たしかに手取りは減っちゃうかもしれませんが、従業員さんからしたらメリットのほうが大きいと思いますよ。
納得してくれるといいですけど。
保険料額の負担と扶養家族
あと、手取りは減るかもしれませんが、自分で国保と国民年金を払っていた分がなくなるので、給与明細の数字ほどは負担が増えないはずなんですよ。
ああ、そんな話でしたね。
国民健康保険の保険料との比較
国保の保険料って住んでる市町村と世帯の人数によるんですけど、八王子市でひとり者だったら、社会保険のほうがちょっと高くなるイメージですね。
たしか月に数千円とか、そんなもんです。
そんなもんで済むんですね。
まあ、会社負担分を足したらその倍になるんですけど、従業員の負担はそんな感じですね。
ああ、そういうことか……。
で、奥さんがパートで年収100万円くらいだったら、扶養家族になって旦那の会社の健康保険が使えるようになるので、社会保険のほうが安くなるかもしれないんですよ。
へえ。
でも、結婚すると保険料も上がるんでしょ?
いやいや、社会保険の場合はそういうのないですね。
むしろ結婚すると、もらえるものが増えるイメージです。
へえ。
しかし、うちのやつら、結婚するのかな……
国民年金の保険料との比較
まあ、それは置いといて、年金の保険料のことも話しておきますね。
ああ、はい。
国民年金は今(平成30年度)、月に16,340円なんで、東京だと月収18万円くらいがボーダーになってますね。
というと?
それ以上もらってる人だと、毎月の保険料が国民年金より高くなる感じなんです。
なるほど。
ちなみに、月に30万円だと、どれくらいになります?
えーと、27,450円ですね。プラス1万円くらいです。
けっこう上がりますね。
ですね。
これも会社負担分を入れたら倍ですから。
そうですよね……
まあ、その分、老後にもらえるお金は増えるんですけど。
そうなんでしょうけど……
あと、厚生年金にも扶養家族の考え方があって、これは奥さんの保険料ゼロで国民年金を納めたのと同じことになるんです。
ああ、聞いたことありますね。
さっきの月収30万円の人でも、国民年金2人分から比べて、マイナス5,000円くらいになるわけですよ。
へえ。
これが大きいんですよね。年間20万円弱の保険料がゼロになるんですから。
なので、主婦がパートするときに「扶養の範囲内で」って話になってくるんですね。
なるほど。
会社から見たメリット
次に、会社側のメリットについて説明していきますね。
ああ、それ知りたいですね。
信頼の向上
これまで説明してきたように、従業員にメリットがいろいろあるので、会社の信頼が上がりますよね。
とくに、家族持ちには手厚い部分が多いので、結婚を考えてる人なんかには印象が良いと思いますよ。
それはあるかもしれませんね。
なので、職人さんを募集するときなんかでも、ホントは社会保険に入ってる会社のほうが有利なはずなんですよ。
でも、若い人たちは手取りで見ますからねえ。
そうなんですよね。
でも、将来のことまでしっかり考えている子だったら、社会保険に入ってる会社を選んでくれると思いますけどね。
だといいんですけど。
助成金の活用
あと、助成金がもらえるようになるのも、会社のメリットになりますかね。
ああ、助成金てよく聞きますね。
パートさんを正社員にするときとかに、うまく手続きを踏むと助成金をもらえる場合があるんですけど、たいていの助成金は雇用保険に入っていないともらえないんですね。
へえ、そうなんですね。
ええ。
助成金のお金ってだいたい雇用保険から出ているので、そこは厳しく見られるんですよね。
なるほど。
まあ、タイミングとかもあるんで、「うまく条件が合ったらもらえるかも」くらいに考えておくのが無難だと思いますけど。
了解です。
建設業許可の維持
それと、建設業許可についても、そのうち社会保険に入ってないと受けられなくなるっていう話が出てきてますね。
そうなんですか?
じゃあ、やっぱり入るしかないですね。
まあ、いつからなのかはまだわからないんですけど、許可の条件になる可能性は高そうですね。未加入だと更新もできなくなるみたいですから。
へえ。
なんで、これは社会保険加入のメリットっていうより、社会保険に入ってない場合のデメリットってことですかね。
ホントですねえ。
まとめ
まとめるとこんな感じですかね。
会社のメリットってあんまりないような気がしますけど……。
たしかに負担のほうが大きく感じますよね。
でも、従業員にこれだけメリットあるんですから、それだけ会社の価値も上がると思いますよ。
まあ、そうかもしれませんね。
いずれにせよ入らなくちゃいけないんだから、みんなにも納得してもらえるように説明してみますわ。
ええ。
難しそうだったら、私から説明してもいいですよ。
ああ、そのときはお願いします。
補足
厚生年金はいくらもらえるのか
けっきょく厚生年金て、どれくらいもらえるんですか?
報酬額と加入期間で変わってくるので、若い人に「将来いくらですよ」って伝えるのは難しいんですよね。
ああ、将来の収入とかわからないですもんね。
ええ。
よく新聞とかで、「夫婦二人で22万円くらい」みたいな説明がされてるんですけど、あれって厚労省が発表しているモデルケースが基になっているので、人によってはかけ離れちゃうんですよね。
そんなもんでしょうね。
ただ、目安としては、月収18万円の人が1年間納めると、1か月にもらえる年金が1,000円増える感じだったはずです。
なんで、10年だと1万円、40年だと4万円増える計算ですかね。
じゃあ、月収36万円だったら、倍の8万円てことですかね?
まあ、イメージですけどね。
これに自分の国民年金分が足されるので、15万円弱にはなります。
それでも厳しそうですね。
同年代の人と結婚していれば、相手の年金も出るので世帯としては20万円以上になるんですけどね。
逆に独り身だと、かなり厳しそうですね。
ええ。
ただ、いずれにせよ、自己負担分だけ考えたら10年以内に元が取れる計算なので、そういった意味では悪くない制度だと思いますよ。
10年で元が取れて、その後も死ぬまでもらえる保険なんて、民間ではまず用意できないでしょうからね。
そんなもんですかね……。