公共工事を取るのに「ケイシン」てのが必要なんですか?
ええ、そうですね。
それってどんな感じなんですかね?
じゃあ、ちょっと説明させてもらいますね。
目次
経営事項審査申請とは
経営事項審査と公共工事入札の関係
公共工事って、基本的に競争入札で工事業者決めますよね。
ええ。
入札って、誰でも参加できるわけじゃなくて、発注する都道府県とか市町村ごとに参加資格が必要なんですよ。
例えば東京都が発注する公共工事をやりたいんだったら、東京都の入札参加資格審査を受けておかないといけないんです。
まあ、ただ待ってても、向こうから仕事振ってこないでしょうからね。
ですよね。
それで、その入札参加の申請をするためには、経営事項審査というのを受けて自社の施工能力を点数化しておく必要があるんですね。それがさっきのケイシン(経審)てやつです。
へえ。
簡単に受けられるんですか?
まあ、建設業の許可があれば、経審を受けること自体はそこまで難しくはないです。
でも、やり方によって点数が変わってきちゃうんで、本気で公共工事を狙うんだったら、いろいろ気をつかうポイントはありますよ。
どういうことです?
経審の総合評定値(P点)と順位格付
経審を受けると、工事の業種ごとに得点が出るんですよ。
P点とか総合評定値とかいうんですけど、たいていの場合、その点数によって順位が付いたり格付けされたりするんですね。
というと?
例えば、東京都の空調工事だったら、AからDの4段階に格付けが分かれてるんですよ。
で、請負金額の大きい工事だと「Aランクの業者だけ入札できる」とか、逆に小さな工事だと「CとDの業者だけ入札できる」とか、そんな感じになってくるんですね。
ほうほう。
その格付けをするときの基準の一つが、経審の点数なんです。
なので、狙いたい公共工事に合わせて、業種ごとに目指す経審の点数も考えないといけないんですね。
なるほど。
なかなか難しそうですねえ。
まあ、そのへんは実際に経審を受けるときに、また相談しながら進めていくことになると思います。
了解です。
ちなみに、入札するたびに経審やらないといけないんですか?
いやいや、基本的には年に1回のペースですね。
ああ、そうなんですね。
経審の有効期限と受審までの流れ
経審を受けると点数が出るんですけど、その有効期限は決算日から1年7か月なんですね。
なので、1年目に受けた経審の結果は、次の年の決算から7か月で無効になるわけです。
とういことで、2年目以降は、決算から7か月以内に最新の通知書を手に入れておく必要があるんですね。
わりと余裕ありそうですね。
いやあ、その前の段階もあるので、それほど余裕ないと思いますよ。
まず、決算から2か月以内に税務申告するじゃないですか。
ええ。
それから、税理士さんが作った決算書を基に建設業の決算報告書を作って、都庁に変更届を出しますよね? これが決算から4か月以内です。
ええ、それくらいでしたよね。
さらに、この決算変更届とかも含めて必要な書類を用意して、経審を受けることになるんです。
ちなみに、東京都知事許可の建設業者だったら、経審の窓口も都庁になります。
ほうほう。
で、経審を受けると結果通知書というのが送られてくるんですけど、これを手に入れておくまでの期限が、実質、決算から7か月なんですね。
なるほど。
決算報告とかが遅れるとスケジュールが厳しくなるんですね。
そうなんですよ。
各方面から書類を集めないといけないので、それなりに時間がかかりますからね。
まあ、「決算から7か月」って覚えておきますよ。
ただ、経審を受けてから通知書が交付されるまでの標準処理期間が、土日祝日を入れないで22日なので、決算から7か月ぎりぎりじゃなくて、その1か月くらい前までに受けておくのが無難でしょうね。
なるほど。
要するに、毎年、決算報告に続けて経審も受けていく必要があるわけです。
了解しました。
他に注意することってあります?
経営事項審査を受ける際の注意点
そうですね。
経審を受けるとなると、決算報告の書類もそれ用のものを用意する必要がありますね。
どういうことです?
経営事項審査を受ける場合の決算変更届(財務諸表)
例えば、財務諸表や工事経歴書は消費税抜きの数字で作る必要があるんですよ。
なので、経審を受ける直前の決算変更届はもちろん税抜きで作りますし、前の年まで税込みにしていた場合は、さかのぼって作り直すことになりますね。
何年前まで作り直すんですか?
直近の年度も入れて3年分だと思っておいてください。3年前のは、一部のデータを直すだけで済む可能性もありますけど。
面倒そうですね。
まあ、それなりに手間はかかりますね。
消費税率が変わったときなんかは、正直ちょっと面倒です。
なるほど。
経営事項審査を受ける場合の決算変更届(工事経歴書)
それと、工事経歴書の作り方にも、経審ならではのルールがあるんですよ。
どんなです?
経審を受けない場合は、請負代金の大きなものから順番に10件くらい書いていけば済むじゃないですか。
ええ。
そんな感じでやってますよ。
でも、経審を受けるんだったら、まずは元請工事を完成工事高の金額順に書いて……みたいな感じになるんですね。こちらも税抜きで。
しかも、「元請完工高の7割」とか「全体の7割」とか、どこまで書かないといけないのか細かく決まっているので、慣れないと結構やっかいなんですよ。
へえ。
あと、東京都の場合だと、経審のときに工事経歴書の上から5件までは実績を証明するために契約書とか注文書と請書のセットとかが必要になるので、それが用意できるかどうかもポイントになりますね。
なるほど。
経営状況分析と登録経営状況分析機関
あと、初めて経審を受ける人が苦戦するとしたら、経営状況分析のときですかね。
なんですか、それ?
経審て、完成工事高の額とか技術者の人数とか、いろいろな面から審査して点数を付けていくんですけど、その中の一つに「経営状況分析」というのがあるんです。
総合評定値の「P点」に対して、経営状況分析のは「Y点」というんですね。
ふんふん。
具体的には、利益率が高かったり借金が少なかったりするとY点が高くなる仕組みで、その計算の仕方が細かく決まっているんです。
なんか大変そうですね。
まあ、実際には専用ソフトに数値を入力していけば点数も計算してくれるんですけど、それだけじゃ済まないんですね。
というと?
経審のときにY点の証明資料として「経営状況分析結果通知書」というのを提出する必要があるので、その前に通知書を手に入れておかないといけないんです。
どうやって?
「登録経営状況分析機関」というのがあるので、そこにデータを送って数値を確認してもらったうえで、通知書を発行してもらうんですね。
へえ。
どれくらいかかるんですか?
分析機関によるんですけど、データを送ってから通知書が届くまでで、だいたい1週間くらいですかね。
料金は12,000円くらいのところが多いです。「即日」とかだと高くなりますけど。
なるほど。
それで、分析機関の会員になったり専用ソフトの設定をしたり、そういうところから始めないといけないので、最初はいろいろ手間がかかるんですよ。
そういうことですか……。
その他の注意点
他に手間取るとしたら、書類集めですかね。
社会保険関係の資料とか技術者の合格証とか、納税証明書なんかも必要になります。
ああ、建設業許可を更新するときと似たような感じですかね。
まあ、基本はそうですね。
注意点としては、審査基準日は直前の決算日なので、その時点で判断されるということです。
ほう。
例えば、ユンボとかの建設機械を持っていると点数が上がるんですけど、申請の時点で会社にユンボがあったとしても、買ったのが決算日の後だったらその年の経審では数に入れられないんですね。
ああ、なるほど。
あと、技術者の場合は審査基準日だけ在籍しているんじゃ足りなくて、「審査基準日以前に6か月を超える恒常的な雇用関係」というのが必要になるんです。
ああ、そのときだけ雇ってもダメってことですね。
そうなんです。
そのへんを正確に理解していないと、経審の窓口で指摘されて、「修正して出直してきてください」と言われてしまわけです。「再来」っていうんですけど。
うーん、やっぱり難しそうですね。
まとめ
経営事項審査についてまとめると、こんな感じですかね。
経営事項審査申請まとめ
- 公共工事入札時の格付けにつながる
- 毎年の決算変更届の後に審査を受ける
- 財務諸表や工事経歴書は経審対応のものを作成する
- 経営状況分析の結果通知書を事前に入手する
- 加点項目は審査基準日の状況で判断する
だいたいわかりました。
最初にお話ししたように、建設業許可があれば自力で申請できないこともないのですが、慣れるまではそれなりに苦戦すると思いますよ。
でしょうね。
無事に審査を受けられるところまで用意するのも結構大変なんですけど、点数アップとかも目指すとなると、さらに複雑になりますからね。
みたいですね。
たぶん、そのときはまたお願いすることになりそうですけど、ひとまずもうちょっと考えてみます。
ええ。
またお気軽にお問い合わせください。
補足
公共工事入札における格付けの必要性
そもそも、なんで格付けとかするんですかね?
まず、公共工事なんで、「誰にでも」ってわけにはいかないですよね。
そりゃそうですね。
かといって、「どんな工事でも経審の点数が高い会社に」ってなると、小規模な建設会社にはチャンスがなくなっちゃうじゃないですか。
ですね。
小規模で資金に余裕のない会社が大規模な工事を請けるのは危険ですけど、逆に大規模な会社が小さな工事を請けても利益出せない可能性があるわけです。
たしかに。
なので、請負代金を基準にして何段階かに分けて、その規模に適した業者から選べるような仕組みにしているんですね。
ほうほう。
そういう事情もあるので、完成工事高や自己資本額の絶対値がある程度はないと、一定以上には点数が伸びないんですよ。
へえ、うまくできてるんですね。
まあ、歴史がありますからね。
入札以外での経審活用法
公共工事を取る気がないんだったら、経審て受ける意味ないんですかね?
いやいや、必ずしもそうとは限りませんよ。
例えば、元請業者に点数を聞かれたときに答えられるようにしておきたいとか、自社の状況を客観的に点数化したいとか、そういった動機で受けられる業者さんもいらっしゃいます。
へえ。
経審結果の公表
経審の結果は公表されるので、元請業者が下請業者を探すときに調べるようなこともあると思いますよ。
ほほう。
財務諸表の中身まで調べようと思ったら都庁まで行かないといけませんけど、経審の総合評定値通知書はインターネットで落とせますからね。
へえ、点数が出てくるんですか?
点数だけでなく、前期の売上高や負債額なんかもわかりますから。
それは貴重な情報ですねえ。
ええ、ですから、経営状況が悪くない会社だったら、積極的に経審を受けてアピールするといいと思うんですよね。
分析機関の選び方
ところで、経営状況の分析機関て、どこに頼んでもいいんですか?
ええ。
国交省に登録された分析機関だったら、どこの結果通知書でも問題ないですよ。
へえ、いくつくらいあるんです?
今は10機関ですね。
【参考】登録経営状況分析機関一覧(2018年4月現在)
*分析手数料は2019.05.01現在(標準的な処理日数のものを掲載)
登録番号 | 機関の名称 | 分析手数料 |
---|---|---|
1 | (一財)建設業情報管理センター(CIIC) | 12,340円 |
2 | (株)マネージメント・データ・リサーチ | 13,000円 |
4 | ワイズ公共データシステム(株) | 12,000円 |
5 | (株)九州経営情報分析センター | 9,800円 |
7 | (株)北海道経営情報センター | 12,800円 |
8 | (株)ネットコア | 13,000円 |
9 | (株)経営状況分析センター(クリックス) | 12,300円 |
10 | 経営状況分析センター西日本(株) | 12,340円 |
11 | (株)日本建設業経営分析センター | 12,340円 |
22 | (株)建設業経営情報分析センター | 7,560円 |
ちなみに、1のCIICは、経審結果の公表なども担当しています。
へえ。
この中から選ぶとすると、やっぱり手数料がポイントになるんですか?
いやあ、行政書士の場合、手数料や返送までの日数だけでなく、専用ソフトの使いやすさなんかも含めて分析機関を選ぶ人が多いんじゃないですかね。
なるほど。
経営状況分析だけでなく、建設業許可の書類作成機能がセットになっているソフトもあるので、結局はそういう会社が選ばれるんじゃないかと。
ああ、わかります、わかります。