目次
はじめに
技能実習制度にかかる法改正が国会で審議されています(2024年5月30日現在)。法改正から3年後を目安に、新たな在留資格「育成就労」での受入れが始まる予定です。そこで、技能実習制度だけでなく、関わりの深い特定技能制度も含めて、複数回に分けて解説していこうと考えています。
全4回で、次の順番で公開していく予定です。また、解説動画をYouTubeにも投稿する予定ですので、合わせてご覧いただけると幸いです。
第1回 技能実習制度とは(今回)
第2回 技能実習制度の歴史
第3回 特定技能制度とは
第4回 育成就労制度とは
第1回となる今回は、現行の技能実習制度について解説していきます。
<動画版はこちら>
1.制度の目的と実態
技能実習制度の目的を簡潔にまとめると、「人材育成を通じた国際協力」になります。
いわゆる途上国から人を呼んできて、日本の現場で働きながら数年かけて技能を身につけてもらう制度です。数年の実習を終えて帰国した元実習生が、日本で身につけた技能を活用して母国で活躍することができれば、その国の経済は発展していくでしょう。このように、技能実習を通じて実習生の母国は経済発展していきますので、受入企業は国際協力の役割を担っていることになるのです。
しかし、実習生を受け入れている企業は、個人事業主も含めた小規模事業者から、従業員50人未満の中小企業が大半です。
【出所】外国人技能実習・研修事業実施状況報告: JITCO白書 (2021年度版)
バブル経済の崩壊後、日本は数十年にもわたる不景気に見舞われました。そのような状況の中で、地域で活動している中小企業に、国際貢献を目的として海外から人材を呼び寄せるだけの余裕があったとは思えません。つまり、技能実習の実態は外国人労働者が日本の製造業や建設業の現場で働ける制度である、といっても差し支えないのではないでしょうか。
日本においては、外国人が生産現場で働ける在留資格はかなり貴重です。出入国在留管理庁(以下「入管」)の資料によると、「外国人労働者の受入れに対する政府方針」は次のようになっています。
【出所】外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組(出入国在留管理庁)
ようするに、「日本人にとって難しい業務を行える外国人材は積極的に受け入れていくが、日本人でもできる人がたくさんいるような業務については、わざわざ外国から人を呼んでくる必要はない」という考え方です。
ですから、中華街で提供されるような本格中華料理のコックさんなら専門的・技術的人材(在留資格「技能」)として受入可能なのに対して、いわゆる町中華のコックさんの場合は受入不可とされています。
とくに、日本人の未経験者でも担当できる業務については受入れの可否が厳しく判断されるのですが、その例外がいくつかあります。
(1)永住者・日本人の配偶者等・定住者などの身分系在留資格
身分に基づく在留資格なので、活動内容(仕事)には制限がありません。
(2)留学
あくまでも日本の学校に通うことを前提としつつ、原則週28時間以内の資格外活動許可(仕事の内容を厳しく問わない包括許可)を受けられます。
(3)技能実習
日本の現場で人材育成を行う目的があるため、就労可能となっています。
このように、実態としては日本の生産現場に外国人労働者を受け入れる制度なのですが、国際協力という目的も大きな意味を持っているのです。
2.技能実習の流れ
現行の技能実習制度では、最長で5年間の実習を行うことが可能です。この5年間は3段階に分かれていて、1号が1年間、2号と3号がそれぞれ2年間となっています。ただし、3号の技能実習生を受け入れることができるのは、一定の要件を満たした「優良な実習実施者」に限られています。
また、人材育成を目的とした制度であることから、次の段階に進むためには、各段階において定められた技能検定(または技能実習評価試験)の合格をもって、着実にレベルアップしていることを証明しなければなりません。
さらに、日ごろ担当してもらう作業内容についても、一定の制約が課されています。つまり、検定合格という結果だけではなく、身につけていく過程も重視されているのです。具体的には、受入企業(実習実施者)は事前に技能実習計画を策定して、「どのような業務を何か月目に何時間行うか」まで計画しておく必要があります。
その他の基準も満たした技能実習計画を策定して、認定を受けないと、技能実習を行うことができません。技能実習計画については次節で詳しく説明しますが、ここまでの流れを図にまとめてみます。
なお、2号へ進むことができる職種、つまり2年目以降も日本で働くことができる職種は「移行対象職種・作業」として定められており、2024年5月1日現在においては、90職種・165作業となっています。
【参考】移行対象職種情報(外国人技能実習機構)
3.技能実習計画
技能実習生を受け入れるにあたり、1人につき1本の技能実習計画を作成して、個別に審査を受ける必要があります。定められたすべての基準を満たして認定を受けなければ、技能実習を行うことができません。ここでは、主な認定基準について説明していきます。
(1)業務内容
先述のとおり、月ごとの作業時間等を決めておく必要があります。作業内容については、技能が身につく作業、言い換えると、技能検定に直結する作業が「必須業務」として明確に定められています。そして、この必須業務を担当する時間が、全体の2分の1以上となっていなければなりません。
2分の1以上の必須業務を確保したうえであれば、「関連業務」や「周辺業務」といった作業を担当してもらうことも可能です。ただし、関連業務は全体の2分の1以下、周辺業務は3分の1以下としなければなりません。運搬作業や梱包作業といった技能習得に結びつかない作業は、周辺業務に該当する場合がほとんどです。ですから、技能実習生に運搬や梱包をメインで担当してもらうことは、制度として想定されていないのです。
また、労働災害を防止するために、各業務の10分の1以上は、教育や点検といった「安全衛生業務」にあてる必要があります。
【出所】技能実習計画審査基準・技能実習実施計画書モデル例・技能実習評価試験試験基準(厚生労働省)
(2)受入体制
技能実習生が日本で安心して生活しながら職場で着実に技能を身につけていけるように、受け入れる企業には一定の体制を整備することが求められています。
まず、実習実施者の常勤職員から「技能実習責任者」を選ばなければなりません。責任を持って実習を進めていくのはもちろん、トラブルが生じた際には責任を取る役割も担っています。役員でなくても担当できますが、実習の実施にあたって組織のトップに立つ人ですので、それなりの立場の人が望ましいでしょう。
この技能実習責任者の下に、2種類の指導員を置く必要があります。まず、実習生に技能を着実に伝えるために、5年以上の実務経験を有する「技能実習指導員」が必要です。さらに、日本語や日本での生活ルールを教えつつ、実習生の相談相手となる「生活指導員」も決めておかなければなりません。
この2種類の指導員には、「実習生と同じ職場に勤める常勤の役職員」という条件があります。ようするに、「いつも身近にいる人」でなければ担当できないのです。
(3)待遇
技能実習生に支払う賃金についても、技能実習計画に記載して審査を受ける必要があります。また、日常生活を送る宿泊施設にも一定の条件がありますので、最低限の宿泊設備を用意しなければなりません。
他にも細かい基準があり、すべての基準を満たしていないと、技能実習計画の認定を受けることができません。それなりのノウハウが必要になりますので、実習実施者が技能実習計画を作成する際には、「監理団体」の指導を受けることになっています。
4.受入れと送出しのイメージ
監理団体を通した受入れ方式を中心に、技能実習生の受入れと送出しの関係を確認していきます。
(1)監理団体
監理団体は技能実習計画の策定だけでなく、実習生の受入れに関しても様々なサポートをしてくれる存在です。2017年11月からは、主務大臣(法務大臣・厚生労働大臣)による許可制になりました。優良基準を満たして第1号から第3号までの実習監理を行える監理団体は、「一般監理事業」の許可を受けています。それに対して、第1号と第2号のみの実習監理を行える監理団体は、「特定監理事業」の許可となっています。
農協・漁協や商工会議所・商工会などが監理団体になっているケースもありますが、民間では事業協同組合を母体としている団体が圧倒的に多いです。そして、実習実施者は原則的に監理団体の会員や組合員となって、監理団体を通じて実習生を受け入れることになります。
なお、監理団体には「営利を目的としない法人」という要件があるため、株式会社や有限会社などの営利団体は存在しません。
【出所】監理団体の検索(外国人技能実習機構)
監理団体が実施する主な支援を、時系列に沿って確認してみましょう。
1)受入れ
実習生を受け入れる実習実施者の多くは地域を中心に活動する中小企業ですから、自社のネットワークを活用して海外から人を呼んでくるのは難しいでしょう。そこで、監理団体が実習生の候補者を集めて、組合員である実習実施者に紹介する仕組みがとられています。
実質的には労働者の紹介を行うわけですから、本来であれば職業安定法における有料職業紹介事業の許可等を受ける必要があります。しかし、監理団体自体が許可制となっているため、実習生の紹介に限っては、職業紹介の許可を受けずに行うことができるのです。
2)入国後講習
実習生が入国後に受講する入国後講習を実施するのも、監理団体の役割の一つです。入国後講習は日本語の学習が中心となりますが、日本の交通ルールやゴミ出しのマナーなど、日本で生活していくために必要な知識も教えます。さらに、入管法や労働法など、実習生自身に関わる重要な法律も学んでもらわなければなりません。
入国後講習は原則2か月間の実施が求められますが、母国において適切な講習を実施することによって、日本での講習を1か月間に短縮することが可能です。
なお、技能実習生と実習実施者が結んだ雇用契約が有効になるのは、入国後講習が終わってからになりますので、講習期間中に仕事をさせることはできません。
3)受入後
入国後講習を終えて実習先に配属された後も、定期的に実習実施者を訪問して、監査等を通じて実習計画に沿った適切な実習が実施できているかどうかを確認していきます。状況によっては、実習実施者に改善の指導や助言を行っていくことになるでしょう。
もちろん、実習実施者だけでなく、技能実習生に対する支援も引き続き行います。具体的には、定期監査や訪問指導時における面談や、電話などで随時受け付けている母国語相談などを通じて、実習生の抱える不安や悩みを早めに聞き出して適切に対応することが求められています。
また、各段階において受検が必須となっている技能検定等についても、慣れていない実習実施者だけでは対策が難しいため、監理団体が過去問の提供などの支援を行うことが想定されています。
2号への移行に必要な技能実習計画の作成指導も、もちろん監理団体が行います。また、技能実習を行っていくうえで必要となる各種届出や在留資格の変更許可申請に関しても、支援を必要とする実習実施者が多いのが実情です。ですので、このような手続きに関する支援も、監理団体に期待されています。
4)帰国
日本で身につけた技能を母国で活用してもらうための制度であることから、技能実習生には確実に帰国してもらう必要があります。そのため、実習生が無事に技能実習を修了した後は、監理団体が責任を持って母国に送り返さなければなりません。
もっとも、現状では2号または3号修了後に、在留資格「特定技能」に切り替えて在留を継続する人も増えています。
(2)送出機関
技能実習生の母国(送出国)側にも、制度を支える「送出機関」の人たちがいます。
まずは、日本で働くことを希望している、技能実習生の候補者がいなければ話が始まりません。ですから、母国に拠点を構えて実習生を募集することも、送出機関の重要な仕事の一つになっています。
次に、送出機関が採用した実習生候補者には、半年から1年ほどかけて教育を行う必要があります。基本的な日本語はもちろん、日本で生活していくうえでのルールやマナーも覚えてもらわなければなりません。さらに、日本の現場で働くために必要な、基礎体力作りや技術的な練習まで行う機関もあるようです。
一定の教育を行ったうえで、監理団体を通じて、候補者と実習実施者が面接する場を設けます。そして、受入企業が決まった内定者が日本へ行けるように、渡航手続なども支援していくことになります。
このように、送出機関は現地において、技能実習生の募集と教育、そして日本への送出しの役割を担っているのです。
当然、送出機関にも適正化が求められますが、外国で活動する機関であることから、日本の法律で不正に対する罰則などを規定するのは困難です。そこで、送出しの円滑化と送出機関の適正化を図るために、技能実習生を送り出しているほとんどの国と日本政府との間で、二国間協力覚書が締結されています。この覚書によって、送出し国の政府機関が認定した送出機関に限って、送出しが認められる仕組みになっています。
【参考】送出し国・送出機関とは(JITCO)
ですから、不適切な送出機関については、送出し国の政府機関に認定を取り消してもらうことによって、間接的に排除していくことが想定されてます。
送出機関の不適切な対応として代表的なものが、違約金の設定と保証金の徴収です。実習途中で帰国した場合に実習生から違約金を取る設定をしていたり、実習生から失踪に備えた保証金の徴収をしていたりするケースが問題になっています。
旧制度のころから、保証金等の負担が重荷になって不法就労に手を出し、結果的に失踪者となってしまう実習生の存在が問題視されていました。そのため、技能実習制度においては、違約金の設定や保証金の徴収をしている送出機関からの受入れは認められていません。ですが、帰国後に行う実習生に対するアンケート(フォローアップ調査)の結果を見ると、まだ完全には排除できていないようです。
【参考】令和4年度技能実習制度に関する調査(外国人技能実習機構)
なお、監理団体と送出機関を含めた「団体監理型」の他に、自社の海外拠点等から人材を日本に呼んできて実習を行う「企業単独型」という方式もあります。ただし、企業単独型で在留する実習生は、現在では実習生全体の2%未満となっています。
【参考】外国人技能実習制度について(PDF資料)(法務省・厚生労働省)
5.その他
(1)技能実習生の受入れ人数推移
現行制度に切り替わった2017年から直近の2023年までの、技能実習生の人数推移を確認しておきます。
折れ線グラフが総数です。棒グラフは2023年末における受入れ人数が多い国順に並べ、左から「ベトナム」「インドネシア」「フィリピン」「中国」「ミャンマー」となっています。
かつて実習生の大半を占めていた中国からの受入れは、母国の経済発展等を理由に減少傾向にあり、直近の割合は7.1%でした。
中国に代わって東南アジア諸国からの受入れが増えています。とくにベトナムからの受入れは大きく増加しており、直近5年ではいずれも50%を超えています。
(2)OTITとJITCO
1)OTIT
技能実習が適切に実施されるように、制度を担当する認可法人を法務大臣と厚生労働大臣が設立しました。その名もずばり、「外国人技能実習機構(OTIT)」です。
OTITのウェブサイトには、次の「業務」が示されています。
- 技能実習計画の認定
- 実習実施者・監理団体への報告要求、実地検査
- 実習実施者の届出の受理
- 監理団体の許可に関する調査
- 技能実習生に対する相談・援助
- 技能実習生に対する転籍の支援
- 技能実習に関する調査・研究 等
【出所】外国人技能実習機構
主な業務を大きく2つに分けると、受入れ側である「実習実施者と監理団体に対する規制」と、受け入れられる「技能実習生の保護」といえるでしょう。
2)JITCO
また、技能実習制度に深く関わる組織として、やはり政府が関係している「国際人材協力機構(JITCO)」という公益財団法人があります。
JITCOは技能実習制度の総合支援機関としてだけでなく、特定技能外国人の受入れ等に関する総合支援機関としても活動しています。
【参考】国際人材協力機構(JITCO)とは(JITCO)
このように、技能実習制度に関連して、OTITとJITCOという2つの「機構」が存在しているのです。
なぜ2つの組織が誕生することになったのか、第2回「技能実習制度の歴史」では、そのあたりの話も含めて確認していきます。
ピンバック:2.技能実習制度の歴史 | 研修から技能実習への発展・技能実習から特定技能・育成就労の流れを考える(全4回)
ピンバック:3.特定技能制度とは | 研修から技能実習への発展・技能実習から特定技能・育成就労の流れを考える(全4回)
ピンバック:4.育成就労制度とは | 研修から技能実習への発展・技能実習から特定技能・育成就労の流れを考える(全4回)