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4.育成就労制度とは

はじめに

技能実習から特定技能・育成就労の流れを考える連載(全4回)
前回は、日本における現場の人材確保を目的に創設された在留資格、「特定技能」について解説しました。第4回(最終回)となる今回は、技能実習制度に代わって2027年からの受入れが予定されている、育成就労制度について解説していきます。

<動画版はこちら>

 

1.育成就労制度創設の背景

育成就労制度は、技能実習制度に代わる制度です。つまり、育成就労制度の創設に伴って技能実習制度が廃止されることになるのです。2023年末において、在留資格「技能実習」で日本に在留する外国人は404,556人*でした。技能実習制度の廃止は、数十万人の外国人労働者はもちろん、受入れ企業などの関係者にも大きな影響を与えます。
*出所:令和5年末現在における在留外国人数について(出入国在留管理庁)

では、なぜこのような改正が行われたのか、まずはその背景から確認していきましょう。




 

2017年11月施行の技能実習法には、附則に次のような定めがあります。

第2条(検討)
政府は、この法律の施行後5年を目途として、この法律の施行の状況を勘案し、必要があると認めるときは、この法律の規定について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

また、特定技能制度創設の基となった2019年4月施行の改正入管法(出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律)にも、附則に次のような定めがあります。

第18条(検討)
2 政府は、この法律の施行後2年を経過した場合において、新入管法別表第一の二の表の特定技能の在留資格に係る制度の在り方(略)について、関係地方公共団体、関係事業者、地域住民その他の関係者の意見を踏まえて検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

これらの規定に基づき、「予定どおり」技能実習制度と特定技能制度が見直されることになったのです。具体的には、2022年11月22日の関係閣僚会議決定によって、「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」が開催されることになりました。これがいわゆる「有識者会議」です。

有識者会議は2022年12月に第1回が開催され、2023年4月の第7回までの議論を踏まえた「中間報告書」が2023年5月にまとめられました。このとき、「技能実習制度を廃止」という部分を強調した新聞記事などが目立っていた記憶があります。実際には、「現行の技能実習制度を廃止して人材確保及び人材育成を目的とする新たな制度の創設を検討すべき」という内容だったのですけれども。

それはともかく、2023年11月までに16回の有識者会議が開催され、「最終報告書」が政府に提出されました。議事録等を調べてみると、「育成就労」という名称(当時は仮称)が出てきたのは、最終回直前の第15回会議だったようです。それまでは「育成技能」という仮称が使われていたように記憶しています。

この最終報告書をベースに国会で審議が行われ、2024年6月14日に改正法*が成立しました。この法改正によって、技能実習制度は育成就労制度へと生まれ変わることになったのです。
*出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律

2.制度の概要(技能実習制度からの変更点を中心に)

では、新しく始まる育成就労制度は技能実習制度とどのような点が異なっているのでしょうか。この節でいくつかのポイントに分けて確認してみます。なお、現行の技能実習制度の概要については、第1回(1.技能実習制度とは)をご参照ください。

目的

技能実習制度の目的は「人材育成を通じた国際協力」でしたが、育成就労制度の目的は「人材育成を通じた人材確保」になりました。外国から受け入れた人材を育成するところまでは変わらないのですが、育成後も日本に残ってもらい、国内だけでは人材確保が困難な分野で活躍してもらうことが前提となっています。

ようするに、「特定産業分野で活躍できる人材を国内で育成するための制度」といえるでしょう。簡単に「特定技能の前段階」といわれることもあります。




 

これまでも技能実習制度が人材確保を目的として利用されている側面はあったのですが、あくまでも制度の目的は「国際協力」となっていました。しかし、法改正によって「国際協力」の文言は消え、正式に「人材確保」を目的とする制度になったのです。

「人材確保」を目的として生まれた特定技能制度と一本化されたわけですから、「国際協力」を源流とする研修から技能実習の流れは、今回の法改正で完全に消滅することになるでしょう。そう考えると、2010年に研修制度と分離したとき以来の、大改正といえるのかもしれません。




 

対象職種

育成就労法の施行規則で「育成就労産業分野」が定められる予定です。特定技能制度における「特定産業分野」の中から、「外国人にその分野に属する技能を本邦において就労を通じて修得させることが相当であるものとして主務省令で定める分野」とありますので、基本的には特定産業分野と一致すると考えられます。ただし、現行の技能実習制度にはない「外食業*」などは、育成就労制度の対象とはならない可能性もあるでしょう。
*医療・福祉施設給食製造職種の例外を除く

逆に、技能実習制度の移行対象職種なのに特定産業分野に入っていないもの(特定技能に進めない業種)については、今後も特定産業分野への追加を目指して業界が動いていくものと予測されます。




 

在留期間と目標レベル

在留期間の上限は原則3年以内です。つまり、3号(4年目と5年目)は廃止されることになります。また、1号と2号の区分もなくなります。

育成就労の3年間で、特定技能1号の水準である、技能検定3級レベルと日本語能力試験N4レベルを目指すわけです。技能水準に関しては現行の技能実習制度と変わりませんが、日本語能力水準については、現行制度とは異なりN4レベルの受験が必須となります。

また、有識者会議では入国時にN5レベルを求める意見もありましたが、ハードルを上げすぎると外国人材の入国意欲に影響することが懸念され、「入国直後の認定日本語教育機関等における相当の日本語講習の受講」も認められる方向でまとまりました。




 

なお、3年間で3級およびN4レベルの試験に合格できなかった場合は、1年間の延長が認められる可能性があります。

計画の認定

技能実習計画が「育成就労計画」に替わりますが、受け入れる外国人ごとに作成して認定を受ける仕組みは変わりません。内容についても、法律で規定されているレベルではそれほど大きな変更はないようです。ただし、今後整備されていく施行規則などによって、様々な変更点が出てくるのではないでしょうか。

なお、1号と2号の区分がなくなるため、3年間の計画をまとめて作ることになるようです。

受入れと送出し

制度の目的は変わるものの、海外から日本に人材を呼んでくる方法については、現行制度からそれほど大きく変わりません。

監理支援機関

監理団体は「監理支援機関」という名称になり、団体監理型技能実習は「監理型育成就労」となります。監理支援機関はこれまでと同様、職業紹介と監査等を中心に行っていくことになりますが、外部役員による監査が認められなくなるなど、許可要件等は厳格化されるようです。なお、3号の廃止に伴って「特定監理事業」と「一般監理事業」の許可区分は廃止されます。

また、特定技能の農業と漁業において認められている派遣形態での受入れも、「労働者派遣等育成就労産業分野」に限って認められています。特定技能と同じ農業と漁業は対象になると考えられますが、拡大するとしても(技能実習の移行対象職種ではない)林業くらいではないでしょうか。

企業単独型での受入れも、「単独型育成就労」として残ります。ただし、育成就労産業分野以外の職種については、新設される在留資格「企業内転勤(2号)」による受入れとなるようです。

送出機関

送出機関の名称には変更がありません。外国で活動する送出機関を日本の法律でコントロールするのは難しい面もありますが、育成就労計画の認定基準に「(受け入れる)外国人が送出機関に支払った費用の額が、育成就労外国人の保護の観点から適正なものとして主務省令で定める基準に適合していること」という要件が追加されました。高額な送出し費用が技能実習生の負担となり、不法就労や失踪につながっている点が問題となっているからでしょう。さらに、問題を解消するため、送出し費用の一部を受入れ企業が負担する仕組みも検討されています。

ここで、変更される用語を整理する意味も込めて、監理型育成就労の関係図を表示してみます。




 

なお、外国人技能実習機構は「外国人育成就労機構」という名称に変わります。

転籍

技能実習制度に対する批判の代表的なものに、2号から3号への移行時以外は原則的に転籍(職場の変更)が認められていない点がありました。これを受けて育成就労制度では、要件を満たせば本人希望による転籍が可能となっています。

まず、育成就労を開始してから、1年(業種によって2年まで延長予定)以上が経過している必要があります。

そして、本人が省令で定めるレベルに達していなければなりません。省令はまだ定まっていませんが、技能検定基礎級レベルと日本語能力試験N5レベルの試験合格が予定されています。

これらの条件を満たした育成就労外国人が育成就労実施者の変更を希望した場合に、新たな受入れ先が計画の認定を受けることによって、転籍が可能となります。もちろん、転籍しても通算の在留期間は原則3年が上限です。なお、異なる産業分野への転籍は認められていません。




 

また、本人希望による転籍のほかに、勤務先が育成就労認定を取り消されたことによる転籍についても、改正法に規定されています。

3.その他

最後に、直近の変更点と今後の見通しについて確認してみます。

特定技能制度の分野拡大と業務区分の見直し

2024年3月29日の閣議決定により、特定技能の基本方針と分野別運用方針の変更が行われました。この変更によって特定産業分野に「自動車運送業」「鉄道」「林業」「木材産業」の4分野が追加され、16分野になりました。なお、「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」は「工業製品製造業」に名称が変更されています。

さらに、業務区分も見直され、工業製品製造業に紡織品製品製造や縫製等が追加されました。この見直しによって、技能実習制度における繊維・衣服関係の職種が特定技能制度の対象となったのです。

また、「3.特定技能制度とは」で説明した、スーパーマーケットで販売する刺身や惣菜を店舗内の調理場で加工するようなケースについても、特定技能制度によって受入可能になる予定です。

【参考】特定技能の受入れ見込数の再設定及び対象分野等の追加について(令和6年3月29日閣議決定)(出入国在留管理庁)




 

入管庁の資料によると「育成就労制度の導入に併せた分野追加等は別途検討予定」とありますが、今回の変更によって技能実習制度における移行対象職種の大部分が特定産業分野の枠内に収まることになりました。

法施行までの見通し

2024年6月21日に公布された改正法の附則に、次のような定めがあります。

第1条(施行期日)
この法律は、公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし(略)

この規定から予測すると、順当に行けば施行日は2027年6月1日になるのではないでしょうか。それまでに政令(育成就労法施行令)と省令(育成就労法施行規則)はもちろん、基本方針や分野別運用方針なども整備されていくものと推測されます。

細かい部分については、育成就労制度に関する運用要領の公表を待って、新制度への対応を考えていくことになるのではないでしょうか。

では、運用要領の公表はいつになるのか。これはまったく予想できないのですが、技能実習法が成立したときと特定技能制度が創設されたときの実績を参考にしてみましょう。




 

こうして並べてみると、特定技能の準備期間がひじょうに短かったことがわかります。それでも施行日までに運用要領が発表されていますので、その気になれば2024年の10月ごろには公表できるのかもしれません。入管庁の職員さんに怒られそうですが……。

ただし、技能実習のときも公布日から半年弱で運用要領が公表されていますので、2025年の春ごろであれば、現実的な日程といえるかもしれません。

もっとも、特定技能は施行日まで2週間を切ってから運用要領が公表されていることになりますので、2027年まで公表されないことも考えられます。

ようするに、「まったく予想できない」ということです。
(希望を込めて2025年6月ごろと予想しておきます)

現行制度での受入れ

改正法の附則に、「技能実習に関する経過措置」などが定められました。

新規の受入れ

技能実習計画の認定は、施行日前まで申請が可能です。ただし、施行日から3か月以内に技能実習が開始されるものに限定されていますので、余裕を持った対応が望まれるでしょう。

一方で、施行日前でも育成就労計画の認定申請を可能とする規定もあります。ちなみに、技能実習法の成立によって技能実習計画が認定制になった際は、施行日の4か月前(2017年7月1日が土曜日だったので7月3日)から事前受付が開始されました。これに対して、監理団体許可申請の事前受付は、5か月前の2017年6月1日からでした。

2027年予定の法改正時にも、類似の取扱いとなることが予測されます。

2号・3号への移行

施行日前から1号または2号の技能実習生だった人、つまり1号または2号の実習中に施行日を迎えた人については、修了後に次の段階への認定申請を行うことは認められています。ですから、1号の実習中に施行日を迎えた人は、技能実習2号までは進めるものの、3号まで進むことはできないのです。

おわりに

4回にわたって解説してきた連載は以上です。そこそこの分量になってしまいましたが、研修制度から技能実習制度が生まれ、特定技能制度と育成就労制度につながっていく流れを、それなりに整理できたかなと考えています。

今回の法改正によって技能実習制度は「発展的に解消」しますが、40年以上の歴史の中で生まれてしまった課題が完全に解消するわけではないでしょう。一方で、人材確保を目的とした外国人の受入れが育成就労制度と特定技能制度に一本化されたことによって、今後も現場への外国人材受入れは加速していくものと予測されます。

政府の目指している外国人材との共生社会が実現するには、まだまだ課題が山積みです。外国人材やその家族の受入れが増えることによって、新たな課題が生じる可能性もあるでしょう。今後も時代に合わせて法改正等がくり返されていくことになるでしょうが、ひとまず育成就労制度の創設までを一区切りとして、解説を終わらせていただきます。

全4回の解説を読んでくださった方がいらっしゃるかわかりませんが、最後までお読みくださいまして、まことにありがとうございます。

おまけ

全4回のシリーズを動画にしてYouTubeチャンネルで公開予定です。テキスト版は詳細に書きすぎてしまった部分もありますので、動画版は1回あたり10分から15分で簡潔にまとめていきたいと考えています。

公開したらこちらのサイトやfacebookページで発表する予定ですので、その際はよろしくお願いいたします。

Posted in 外国人雇用

2件のコメント

  1. 船津元

    丁寧にまとめて頂き大変勉強になりました。現在、登録支援機関として70名以上のお世話をしていますが、今後は育成就労から特定技能迄を管理できる支援機関が重要になると思います。育成就労も扱える支援機関の申請受付など今後も関心を持ってみて行きたいと思います。

    • hassaw

      コメントありがとうございます。普段、ほとんど反応のないサイトですので、とても励みになりました。

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