メニュー 閉じる

3.特定技能制度とは

はじめに

技能実習から特定技能・育成就労の流れを考える連載(全4回)
前回は、研修制度から始まる技能実習制度の歴史について解説しました。第3回となる今回は、技能実習制度とは別の枠組みで外国人労働者を日本の現場に受け入れるために創設された、特定技能制度について解説していきます。




 
今回の記事では、主に次の資料を参考にしております(PRを含みます)。

【参考文献】
「特定技能」外国人雇用準備講座〜特定技能外国人を採用する前にチェックしておきたい50項目〜』2020 井出誠・長岡俊行(ビジネス教育出版社)

<動画版はこちら>

 

1.特定技能制度の目的と受入れ対象職種

出入国在留管理庁が策定する『特定技能外国人受入れに関する運用要領』(以下「運用要領」)には、在留資格「特定技能」創設の目的が次のように記載されています。

中小・小規模事業者をはじめとした人手不足は深刻化しており、我が国の経済・社会基盤の持続可能性を阻害する可能性が出てきているため、生産性向上や国内人材確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れていく仕組みを構築することが求められているものです。

要約すると、「中小企業の人手不足を解消するために、特定の業種に即戦力の外国人労働者を受け入れるために創設された」という感じでしょうか。これに対して、技能実習制度は「人材育成を通じた国際協力」を目的として創設されています。

第2回「技能実習制度の歴史」で確認したとおり、研修制度と技能実習制度は、名称や労働者性の有無など、異なる点はあったものの、目的自体は共通していました。しかし、技能実習制度と特定技能制度は、完全に異なる目的によって創設された制度なのです。




 

では、とくに人材確保が困難な産業上の分野とは、どのような業種なのでしょうか。特定技能制度において受入対象となっている業種は「特定産業分野」と呼ばれ、制度創設時に次の14分野が定められました。

  • 介護
  • ビルクリーニング
  • 素形材産業
  • 産業機械製造業
  • 電気・電子情報関連産業
  • 建設
  • 造船・舶用工業
  • 自動車整備
  • 航空
  • 宿泊
  • 農業
  • 漁業
  • 飲食料品製造業
  • 外食業

2019年4月の特定技能創設当時、技能実習の移行対象職種に「宿泊」はありませんでした。しかし、東京オリンピックを目前に控えた(実際にはコロナ禍の影響で1年延期)2020年2月に追加されています。つまり、外食業以外は技能実習と業務内容が重なっているのです。しかし、制度の目的はまったく違うのですから、最初からいろいろと無理があったように感じられます。

それはともかく、対象者等の解説に進む前に、用語をいくつか確認しておきましょう。

まず、日本の現場に受け入れられる外国人は、「特定技能外国人」と呼ばれます。そして、受け入れる企業等は、「特定技能所属機関」と呼ばれます。この2者の間で結ばれる労働契約が、「特定技能雇用契約」です。




 

2.特定技能外国人

まずは特定技能外国人について説明していきます。当然、労働者として労働基準法等の保護を受ける対象です。技能実習と同じように1号と2号の区分があります。

在留資格の要件と在留期間の上限

特定技能1号

即戦力となる人材を受け入れる制度ですので、就労開始時に要求されるレベルは技能実習生よりも高いです。技能水準だけでなく日本語能力水準も定められていて、いずれも国内外で実施される試験で確認されます。

技能水準を評価する試験の名称は分野によって多少異なるのですが、「**分野特定技能1号評価試験」といったものが多いです。レベルは技能検定の3級相当とされています。

日本語能力水準については、日本語能力試験(JLPT)のN4合格以上です。ただし、日本語能力試験は年に2回しか実施されないので、特定技能と同時期に創設された国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)のA2合格でも要件を満たせます。




 
検定3級ということは、技能実習であれば2号修了時のレベルと同等です。その結果、技能実習2号修了者については、試験を受けなくても関連する分野に移行することが認められることになりました。なお、実習生には日本語能力試験の受験が義務付けられてはいないものの、技能実習2号修了者は日本語能力水準の試験も免除されています。もちろん、技能実習3号修了者も、技能・日本語ともに無試験で移行可能です。

なお、特定技能1号の在留期間は「通算5年」が上限ですので、途中で職種を変更しても最長で5年までしか日本で働くことができません。




 

特定技能2号

特定技能2号は在留期間の更新回数に制限がなく、より長期的な雇用が期待されています。ただし、技能水準は検定1級レベルが必要です。

なお、日本語能力水準については、現時点では確認不要となっています。この点は、在留資格「技能」をはじめとした専門的・技術的分野の外国人材と同様の扱いといえるでしょう。もちろん、「日本の1級技能士になれるレベルの人なら日本語も通じるだろう」という考え方もあると思われます。




 

担当できる業務

一定レベルの技能を要件としていることから、担当してもらう業務もそれなりのものを用意する必要があります。1号も2号も、運用要領(特定の分野に係る要領別冊)の「別表」に定められた「特定技能外国人が従事する業務区分」に従って担当業務を決めることになります。




 
図に示したとおり、業務区分はかなり大まかなものになっています。技能実習とは違って「必須業務」や「関連業務」といった区別もないことから、比較的柔軟に業務を割り振ることができるのではないでしょうか。また、技能実習計画のように、業務に関する詳細な計画を策定する必要もありません。

ただし、建設分野については「主な業務内容」と「想定される関連業務」が示されていますので、運搬や清掃といった関連業務ばかり担当させるわけにはいきません。また、安全衛生教育や検定の予定などを大まかに定めた計画(建設特定技能受入計画)を策定する必要もあります。

この計画は、技能実習計画ほど詳細なものではありません。イメージとしては、第2回の終盤で紹介した「外国人建設就労者受入事業」の「適正監理計画」に近いです。外国人建設就労者受入事業を「技能実習3号の前身」と捉える向きもありますが、どちらかというと特定技能(建設分野)の基になった制度といえるのではないでしょうか。

家族の帯同

在留資格「特定技能1号」では、技能実習生と同様、家族を日本に呼び寄せることができません。これに対して「特定技能2号」であれば、配偶者と子を在留資格「家族滞在」で呼び寄せることが可能です。この点についても、特定技能2号は在留資格「技能」等の専門人材と同等の扱いとなっています。

3.特定技能所属機関

次に、特定技能所属機関について説明していきます。

特定産業分野

まず大前提として、特定産業分野に該当していなければなりません。技能実習は作業内容に着目して受入れの可否が判断されましたが、特定技能は受入企業の業種が基準になるのです。

ですから、スーパーマーケットで販売する刺身や惣菜を店舗内の調理場で加工する人の場合、技能実習であれば「生食用加工品製造」や「そう菜加工作業」として受入れ可能だったにもかかわらず、特定技能では「飲食料品製造業」ではなく「小売業」と判断されてしまうため、受け入れることができませんでした(改正予定)。

また、建設や製造の分野においても、「技能実習生の受入れはできても業種としては特定産業分野に該当しない」事例が散見されるので注意が必要です。

支援体制

「支援責任者」と「支援担当者」を選任する必要があります。イメージとしては、技能実習制度における技能実習責任者と生活指導員に近いのではないでしょうか。

支援責任者も支援担当者も、受入企業自体が過去2年以内に中長期在留者を受け入れた実績がある場合は役職員(経験不問)の中から、企業自体に受入れ実績がなければ生活相談等の経験を有する役職員の中から選ぶことになります。

また、受け入れる外国人が十分に理解できる言語*で情報提供や相談対応を実施できる体制も整備する必要があります。
*運用要領に「母国語には限られませんが、当該外国人が内容を余すことなく理解できるもの」とありますので、ごく一部の例外を除いて母国語に限定されると考えられます。

なお、支援体制については、後述する「登録支援機関」に支援を委託することによって、要件を満たすことが可能です。

支援計画

1号特定技能外国人に対して、次の義務的支援を実施しなければなりません。

義務的支援の概要

  1. 雇用契約や在留資格に関する情報提供(事前ガイダンス)
  2. 出入国時における空港等への送迎
  3. 生活環境の整備に必要な契約に係る支援
  4. 生活オリエンテーション
  5. 行政手続をする際の窓口等における補助
  6. 日本語を学習する機会の提供
  7. 母国語等による相談・苦情対応
  8. 日本人との交流促進
  9. 会社都合退職が発生した場合の転職支援
  10. 本人と監督者に対する定期的な面談

運用要領では「職業生活上、日常生活上または社会生活上の支援」と説明されていますが、「仕事・私生活・言語」の観点から切り分けることができるのではないでしょうか。外国人が日本に住んで働く際には、文化の違いや言語の壁がトラブルの原因になりがちです。ですから、適切な支援によって外国人労働者が「働きやすくて暮らしやすい」環境を整備して、トラブルを予防することが求められているのでしょう。




 
1から10までの義務的支援をすべて「1号特定技能外国人支援計画」に記載したうえで、適切に実施する必要があります。なお、支援の実施にあたっては、登録支援機関と支援委託契約を結ぶことによって外部委託することが認められています。

4.登録支援機関と送出機関

登録支援機関

1号特定技能外国人支援計画の実施を受託できる機関です。日本で働く外国人と受け入れる企業等を支援するわけですから、技能実習制度における監理団体のような存在といえるでしょう。もちろん、監理団体とは明確に異なる点もあります。

  • 支援は行うが監査は行わない
  • 許可制ではなく登録制(5年更新)
  • 非営利だけでなく営利団体でも可
  • 法人だけでなく個人での登録も可

2024年6月13日現在、9,772件が登録されていて、内訳は次のようになっています。

【参考】登録支援機関(出入国在留管理庁)

送出機関

海外から特定技能外国人として新規に呼び寄せる場合はもちろん、すでに入国している技能実習生や留学生から特定技能へ変更する場合であっても、送出し国によっては送出機関を通じた手続きが必要です。

技能実習と同じように、主な送出し国とは二国間協力覚書が締結されています。多くの国が技能実習と特定技能の両制度において覚書を締結していますが、いずれか一方だけの国もあります。




 
なお、技能実習制度に比べると送出し国は幅広く認められていて、上陸基準省令によって除外されているのは、イラン・イスラム共和国のみとなっています。とはいえ、二国間協力覚書を締結した国を中心に受入れが進んでいるのが実情です。




 
第1回「技能実習制度とは」で表示した「技能実習生の受入れ人数推移」と同じく、2023年末の上位5か国は「ベトナム」「インドネシア」「フィリピン」「中国」「ミャンマー」となりました。

また、直近5年(2019年4月の制度開始以来)においてベトナム出身者が50%超を占めている状況も、技能実習制度と同様です。

5.制度創設から5年間の歴史

最後に、2019年4月の制度創設から5年間を振り返ってみます。

人数の推移

受入れ開始から5年間(60か月)の人数推移をグラフにしてみました。主に「速報値」を入力しているため微妙なズレはありますが、全体の傾向はつかめるかと思われます。




 
受入れ開始時、国際交流基金の日本語基礎テスト(JFT-Basic)はフィリピンでしか受けられませんでした。他の国での試験が始まったのは、2019年10月からです。

また、技能試験についても、2019年4月から海外で実施できたのは、EPAによる受入れでノウハウのある介護分野だけでした。他の分野でも試験が開始されたのは、やはり2019年10月以降になります。

このような状況でしたので、本格的な受入れが始まるのは、2020年からではないかと予想されていました。しかし、2020年の初頭からコロナ禍が続いたため、海外からの新規入国が制限され、特定技能の資格による在留者数はなかなか増えませんでした。

制度開始時に、特定技能1号の受入れ見込数(5年間の最大値)は、345,150人とされました。それに対して、2020年3月末時点での実績は3,987人です。当時は新聞報道などでも批判されていたように記憶していますが、技能実習からの移行が進んでいくうちに入国制限も緩和されていき、結果的には当初5年間の受入れが232,001人となりました(2号は55人)。

345,150人という数字は「目標」ではありませんが、あえて「達成率」を計算すると67.2%になります。

なお、コロナ禍等の影響を受けて各分野における人手不足の状況にも変化があったため、2022年8月30日の閣議決定により、1号特定技能外国人の受入れ見込数が見直されています。




 

産業分野と業務区分の変更

人手不足の解消が困難な特定産業分野と業務区分についても、5年間のうちに見直しがされています。

制度開始時点では先述の14分野でしたが、2022年5月25日に運用要領が更新され、「素形材産業分野」「産業機械製造業分野」「電気・電子情報関連産業分野」の3分野が「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業分野」に統合されました。

また、業務区分についても何度か見直されています。とくに目立つのが建設分野と製造分野ではないでしょうか。

建設分野は「型枠施工」等の11区分から始まり、2020年2月28日から「とび」「建築大工」等の7区分が追加されました。




 
そして、2022年8月30日からは「土木」「建築」「ライフライン・設備」の3区分に統合され、技能実習制度における建設関係の25職種38作業すべてが対象となっています。

製造分野は「鋳造」「機械加工」「電子機器組立て」等の19区分から始まりましたが、建設業と同じく2022年8月30日に、「機械金属加工」「電気電子機器組立て」「金属表面処理」の3区分に統合されました。




 
このように、業務区分の追加や統合によって、技能実習制度の移行対象職種・作業を幅広くカバーできるようになってきたのです。

2号対象業種の追加

制度創設時、特定技能2号の受入れは「建設」「造船・舶用工業(溶接)」の2分野しか定められていませんでした。そして、受入れ予定は「2021年度から」とされていました。しかし、実際に1人目の2号特定技能外国人が誕生したのは2022年4月です。これは、特定技能2号を対象とした技能評価試験の整備が遅れ、実質的に学科も含めた1級の技能検定に合格するよりほかに道がなかったからだと考えられます。

特定技能1号は在留期間の上限が5年間ですので、制度創設当初に1号の資格を取った人は、2024年4月以降に在留期間の上限を迎えてしまいます。そのような状況の中、2023年6月9日の閣議決定により、介護分野を除く11分野が特定技能2号の対象となりました。なお、介護については、在留資格「介護」に移行すれば更新上限がなくなり家族の呼び寄せも可能となりますので、特定技能2号の対象からは除かれています。

その後、各分野において2号評価試験が整備され、合格者の情報なども新聞報道等で目にするようになりました。ただし、合格後すぐに在留資格を変更するとは限らないせいか、2024年3月末に特定技能2号で在留する外国人の数は、55人にとどまっています。

 
このように、特定技能制度の創設から5年間の中で、現場の状況に合わせて様々な調整が加えられてきました。いくつかの見直し内容は、技能実習制度と関連したものになっています。

技能実習制度を維持したままで特定技能制度との整合性を図っていく道も探られていたのでしょう。しかし、「国際協力」と「人材確保」という異なる目的の制度を統合するのは難しかったようです。

そこで、特定技能との一本化を前提に技能実習制度を発展的に解消して、新たな在留資格「育成就労」が創設されることになりました。




 
2024年6月14日に根拠法が成立した育成就労制度については、第4回で解説していきます。

Posted in 外国人雇用

2件のコメント

  1. ピンバック:2.技能実習制度の歴史 | 研修から技能実習への発展・技能実習から特定技能・育成就労の流れを考える(全4回)

  2. ピンバック:4.育成就労制度とは | 研修から技能実習への発展・技能実習から特定技能・育成就労の流れを考える(全4回)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください