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労働時間:労働させられる時間の上限と計算方法

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親戚の集まりで社労士の「おじさん」がいろいろ説明していくシリーズです。

アイコンデザイン:こなか かのこ様

文中の図をクリックすると拡大できます(例外あり)。

【参考】動画はこちら


はじめに


今回は労働時間の話をしてみますね。



これも気をつかうところだね。



どうして?



そりゃあ、働いてもらった分はしっかり給料を払わなくちゃいけないからね。
昔は仕事が何時に終わっても「日当いくら」で済んだけど、今はそうもいかないのよ。



まあ、ホントは昔からダメだったんだけど、最近は特に厳しくなっているよね。



僕らも、会社から「あんまり残業するな」って言われることがあります。



そうだろうね。
ところで、「残業」ってどの時間のこと差しているか、わかる?



え?
「定時を過ぎたら」だと思っていますけど、違うんですか?



まあ、実際はそれで問題ないんだろうけど、せっかくなんでもうちょっと詳しく説明してみますね。

法定労働時間


まず、「法定労働時間」というのがあって、「使用者が労働者を働かせることができる時間の上限」があるのよ。
どれくらいかわかる?



うーん、毎日15時間くらいの勤務が1週間続いたときはきつかったな。
15時間×22日だと330時間か……。でも、もっと働いている人もいるだろうから、上限だと月に360時間くらいですかね?



いやいや、働き方改革で残業は月に100時間が限界になったはずだから、そこまで多くないんじゃないかな。
1日8時間に25日を掛けて、それに100を足すと300時間。このへんが限界でしょ。



いやあ……そもそも月単位じゃないんですよ。



え? そうなんですか?

法定労働時間(働かせることができる上限)


正解は、1日だと8時間、1週間の合計だと40時間を超えて労働させた時点で違法です。

労働基準法 第32条(労働時間)

1 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。






それだけ?
じゃあ、うちの会社は違法ってことですか?



いやいや、この法律どおりだと、残業をちょっとでもすると違法になっちゃうよね。
なので、ちゃんと届出をしていれば残業してもOKというルールもあるのよ。



ああ、サブロク協定のことか。



そうそう。
そこはまた後で説明するので、とりあえず40時間と8時間について説明しておきますね。



ええ。



まず、なんで労働時間の上限が決められているかっていうと、やっぱり労働者の保護が目的なのよね。



たくさん働ければバイト代も稼げる、って考え方はダメなの?



もちろん、そういう考え方もあるんだけど、極端な働き方すると体壊しちゃうからね。



労災事件とかあるもんな。



うん。
長時間労働が続くと、大事な血管が切れちゃったりメンタルやられちゃったり、ってことにもなるのよ。



そっか……。



それに、「そんなに働きたくない」って人もいるのに「うちは毎日15時間働かせるぞ」ってされたら、やっぱり労働者が困るでしょ。



たしかに。



なので、週に40時間と1日8時間という上限を決めているのね。
でも、その枠だけだと仕事が終わらない場合もあるだろうから、さっきの「36(サブロク)協定」があるんだね。



まあ、いつも時間どおりに進められたら苦労しないからね。
かといって、人を多めに雇って時間内に仕事を終わらせられる体制にして、「ヒマなときは遊んでいてOK」じゃあ、会社が潰れちゃうし。



世の中には残業ゼロでちゃんと利益を出している会社もあるみたいだけど、まだまだ少数派だろうね。



大変なんだね。
それで、サブロク協定って、どんなものなの?

36協定(時間外および休日の労働)


サブロク協定は、「労使協定」の一つだね。
労使協定は労働者と使用者の話し合いのことで、大事なことはたいてい書面に残すようになっているんだ。



話し合いなんかしたことないと思うけどな……



まあ、一人ひとりと協議していたら大変なので、「労働者代表」と使用者がハンコを押すことになるんだね。
この代表の決め方とかにもいろいろルールがあるんだけど、会社の規模が大きくなると、末端の従業員が気づかないうちに話が進んでいくようなこともあるんじゃないかな。



そんなもんなんですね。



ともかく、このサブロク協定で「うちの職場はこういう場合に残業してもらいますよ」「いいですよ」という取決めをしておくのね。
で、これを専用の書面に書き込んで労働基準監督署に届け出ておくと、週に40時間と1日8時間の枠を超えて働いてもらっても、違法にはならないと。




これって、アルバイトも同じなの?



もちろん。
たとえアルバイトの人であっても、長時間労働したら体に堪えるのは同じだからね。



そういうことか……。



ちなみに、サブロク協定のひな形には「時間外労働・休日労働に関する協定届」って書いてあるんだけど、休日労働の場合も同じように、サブロク協定を結んでいないと違法になっちゃうのよ。
休日の話もすると長くなっちゃうんで、これはまたそのうちに



了解です。



あと、サブロク協定を結んだからといって、際限なく残業させられるわけではないのよ。
さっきちらっと出た「働き方改革」の一つで、上限が厳しくなったのね。



「月に100時間まで」ってやつか。



そうそう。
正確には「時間外労働と休日労働を合わせて100時間未満」だね。
他にも細かい決まりはあるんだけど、とにかく「サブロク協定さえ結べばいくらでも残業させられる」って時代はもう終わったんだね。



オレらが若いころは「24時間、戦えますか?」とかあったけどな。



だね。
今どき、あんなCM流したら一発で炎上しちゃうだろうけど、当時はなんとなくカッコ良く見えたもんね。



まあ、それこそ「時代」ってやつかね。

拘束時間と労働時間と休憩時間


あと、通勤中とか着替え中とか、「これは労働時間なのか」という問題もあるので、ちょっと話しておきますね。



着替え中?



制服がある場合なんかの話ね、作業着とかも含めて。



ああ、なるほど。



まず、通勤時間は、基本的には労働時間に入らないのね。
これは、働いている人なら感覚的にわかるんじゃないかと。



バイトの僕らも、お店で働いている時間しか時給出ないですもんね。



普通はそうだよね。
職場から家が近い人と遠い人とで体の負担は違うんだけど、さすがにこのへんは労働者本人の都合でしょうと。



通勤がイヤだったら、職場の近くに引っ越すか家の近くで仕事見つけるか、ってことだな。



だね。
で、出社してから退社するまでが「拘束時間」てことになるんだけど、この大部分が労働時間になるんだね。



大部分て、どの程度なんですか?



労働時間を定めた法律に「休憩時間を除き」ってあるとおり、拘束時間から休憩時間を引いたものが労働時間になる感じかな。




そのままな感じもするけど。



例えば、お店でお客さんが来なくてスマホいじっている時間だとか、建設現場で材料が届かなくてスマホいじっている時間だとか、そういうのは「手待時間」ていうんだけど、休憩時間じゃなくて労働時間に含まれるのね。



さすがにスマホはいじってないけど、言われてみると「働いている時間じゃないけど、休んでいるわけでもない」って感じだね。



だよね。
「作業の手は休めているけど、職場に待機していつでも動けるように」みたいな時間は、労働時間に入るイメージかな。



なるほど。



じゃあ、さっき言った「制服に着替える時間」は、どっちだと思う?



わざわざ聞くってことは、それも入るってこと?



そうなのよ。
「着替え=労働時間」てわけじゃないんだけど、会社指定の制服に着替えるってことは会社の命令に従っている時間なので、やっぱり基本的には労働時間になるのね。



へえ。



いま「会社の命令」と言ったけど、よく「使用者の指揮命令下」って表現が使われるんだよね。



じゃあ、会社が時間を指定している昼休みなんかも、本当は労働時間なんですか?



いやあ、さすがにそれは入らないでしょ。
昼に限らず、会社の指揮命令下から離れて自由に過ごすのが休憩時間なので、そこは給料発生しないよね。



そりゃ、そうか。



逆に、昼休みの時間帯で、「自分の席で弁当食べてもいいけど電話が鳴ったら取ってね」みたいな場合は、休憩時間として認められない可能性もあるかな。



へえ。



大雑把に言うと、「休憩時間=会社のことは気にしないで自由に過ごす時間」みたいなイメージになるんじゃないかな。
で、さっきも言ったとおり、拘束時間からこの休憩時間を引いた残りが労働時間になるのね。



じゃあ、勤務開始の時間より前に出社して、自分の席で新聞を読んでいる時間なんかも、労働時間になるんですかね?



いやあ、会社の命令で待機させられているんじゃなければ、労働時間とは言えないんじゃないかな……。



そりゃ、そうか。



そんなに甘くないって。



だよね。



で、この休憩時間にも、やっぱりちゃんとルールがあるのね。

労働基準法 第34条(休憩)

使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。




細かい数字は置いておいて、「長時間働かせるんだったら、途中で休憩を取らせないとダメ」って考え方だね。



「6時間を超える」ってことは、6時間以内だったら休憩なしでもいいんですかね?



そういうことになるね。
1日数時間のパートさんとかだと、休憩なしもあり得るんじゃないかな。




休憩なしってことは、トイレにも行けないの?



まあ、休憩を設定する必要がないだけで、トイレはまた別の問題でしょ。
ただ、どうしても離れられない職場だったら、「垂れ流し」ってこともあり得るかもね。
狙撃手とか、そういう感じらしいから。



宇宙飛行士も、打上のときとかはしばらく動けないから、オムツするらしいですね。



まあ、特殊な仕事の話はともかく、「ちょっとトイレ」とか「コーヒー一杯」とか、そのへんはあんまりやかましくすると職場がギスギスしちゃうからな。



「あの人はトイレ休憩が多い」とかは労働者側の問題なので、そのへんは「常識の範囲で」みたいな感じになるよね。



だな。



フルタイムで働く人だったら、「1日に最低でも1時間(60分)の休憩が取れる」って考え方さえ知っていればいいんじゃないかな。



そういえば、外回りの日なんかだと、ご飯食べ終わった後でずっとお店にいるわけにもいかないので、1時間も休めないことあるんですよね。
そういう場合の休憩って、どうなんですか?



厳密に考えると、やっぱり「指揮命令下」がキーワードになるんじゃないかな。
お店で粘るとか違う店に入るとか、または公園でハトにエサやって過ごすとか、ともかく会社が「1時間は自由に過ごしていいよ」と決めているんだったら、1時間の休憩になるんじゃないかと。
逆に、会社が予定を詰め詰めにして「ご飯をかき込む時間しかない」みたいな状況だったら、お店に入っている時間だけが休憩時間になるかもしれないね。



まあ、1時間は休めるはずなんですけど……



難しいところだよね。
その代わりといっちゃなんだけど、移動中に電車の中で寝ていても「外回り」の一部ということになるので、給料削られるようなことはないだろうし。



ですね。



ただ、外回りの営業職とかで、労働時間が正確に計れない場合なんかは、特殊な計算方法があるのよ。



どんな感じなんですか?

みなし労働時間


「みなし労働時間制」とか「労働時間のみなし制」とか言われるんだけど、要するに「実際に働いた時間が何時間でも、あらかじめ決められた時間の労働をしたものとみなす」みたいな感じだね。



実際の労働時間より少なくなっちゃうこともあるんですか?



もちろん。
多くなることも少なくなることもあるだろうね。



働いた時間が削られちゃうってことですよね?
それって、労働者の保護になるんですか?



本来は労働者の保護を目的に作られた制度なので、使用者が悪用しなければ問題ないはずなんだよね。



悪用される可能性もあるんですね。



例えば、8時間とみなす設定にしておきながら、12時間くらいがんばらないと終わらない仕事をさせるとか……。
でも、労働者から不満が出て裁判とかになったら、会社が負ける確率が高いよね。



裁判なんかしないで、泣き寝入りしちゃう人だってたくさんいるだろ?



まあ、そうだよね。
なので、導入するにはそれなりの条件を満たす必要があるのよ。



だろうな。



まずは、さっき話した外回りの営業さんのケースね。
これは「事業場外のみなし労働時間制」とか呼ばれるんだけど、前提として「労働時間を算定し難いとき」という条件があるのよ。



どういうこと?



昔は外出中の行動を会社が把握しづらかったので、「休憩の取り方とか直行直帰の判断とか任せるから、普通に仕事したら8時間働いたことにして給料払います」みたいな使い方ができたのね。



ふんふん。



でも、今は外出中でもケータイとかである程度の行動を把握できるよね。
なので、この「事業場外みなし」は導入しづらくなっているんじゃないかな。



チャットで「直帰します」とか伝えられますもんね。



でしょ。
今はスマホのアプリでタイムカード以上の管理ができるからね。



便利といえば、便利ですけどね。



まあね。
あと、事業場外型の他には「専門業務型」と「企画業務型」というのがあって、やっぱり「なん時間労働したものとみなす」ってことにできるのよ。



へえ。



ただ、「専門業務型」は業種が絞られているのね。
研究者とかデザイナーとか、あとは士業の一部かな。
イメージとしては、「時間を掛けたら成果が出るとは限らない職種」、逆に言うと、「時間を掛けなくても成果が出るかもしれない職種」って感じかな。



会社としては、短時間でもちゃんと成果を出してくれれば問題ないもんな。



そうだよね。
もう一つの「企画業務型」も似たような感じなんだけど、こちらは業種の制限が緩い代わりに、導入するときの手続きが厳しくなっているのよ。
社内に労使委員会を設置しなければいけないとか、なかなか大変なので導入しているところは少ないみたいだね。



こりゃ、参考程度だな。



だね。


 

変形労働時間制


最後に、変形労働時間制というのも説明しておくね。
これは、週40時間をベースにして、1日8時間の枠を増減させていく感じかな。



6時間の日と10時間の日があるので、平均は8時間です。みたいな?



そうそう。
区切り方とかでいくつかパターンがあるのよ。
例えば、「1か月単位」というやつは、「月末は忙しいけど月の前半はヒマ」みたいな職場で使われるかな。



ほうほう。



前半の2週間は6時間×10日の労働にして、後半の2週間は10時間×10日にすると、合計で160時間になるよね。計4週間なので160を4で割ると、ちょうど40時間になると。
これだと平均40時間に収まっているので、前半10時間働く日も残業は発生しないことになるのよ。




なるほど。



季節によって忙しかったりヒマだったりする職場の場合は、1年以内の期間で設定する方式を選ぶ手もあるよね。
あと、1週間単位で8時間の枠を超える設定もあるにはあるんだけど、対象が小規模な旅館とかに限られていることもあって、そんなに活用されていないみたいだね。



へえ。



あともう一つ、フレックスタイムも変形労働時間の一種になるかな。



あ、うちの職場もありますね。



他の3つと大きく違うのは、「労働者側が働く時間を設定できる」って点だね。



どういうこと?



これまで話した変形労働時間制は、「この日は6時間」とか「次の日は10時間」とか、労働時間を設定するのは、基本的に使用者なんだよね。



言われてみれば。



それに対して、このフレックスタイムは、「必ず出社しなければならない時間帯」とか、そういう設定は会社が主体で決めるんだけど、実際に運用が始まってからは、その枠組みの中で労働者が働く時間帯を選んでいくのね。



「きょうは9時に出勤して18時に帰るけど、あしたは11時に出勤して20時に帰ります」みたいな感じですよね?



そうそう。
先の3つは、どちらかというと労働者保護より会社都合の発想だと思うんだけど、フレックスタイムに関していえば、うまく機能すると労働者が働きやすい環境につながるんじゃないかな。



朝が得意な人もいれば、極端に苦手な人もいますからね。



だね。
いずれにせよ、「どんな職場でも1日8時間と1週40時間を厳守」ってやっちゃうと実情に合わない職場も出てくるので、幅を持たせられる仕組みになっているんだね。



本音を言うと、もうちょっと幅を広げてほしいけどな。



労働者も望んでいるんだったら、もっと柔軟な運用もアリなんじゃないかと思うんだけど、やっぱり「使用者が極端な設定をしないように」という考え方から制度が作られているからね。




まあ、仕方ないよな。


おわりに


そんなわけで、今回は労働時間について説明してみました。長時間労働や休憩なしでの労働をさせられないように、労働時間や休憩のルールが決まっているわけだね。
変形労働時間制などによって多少の柔軟化は図られているんだけど、やっぱり運用するにはきちんとルールを守らなければならないんだ。
長時間労働の話なんかも、丈夫な人は1か月に400時間とか働き続けても耐えられちゃうのよ。で、そうやって生き残った人が経営者になって「オレのように働けば成功するぞ」みたいになると、普通の人は体や心を壊しちゃうのね。
なので、どうしても制限は必要になってくるんだよね。



そうだな……。
「従業員のため」みたいな思い込みは危険なんだよな……。



そうだね。


Posted in 労働法図解

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