割増賃金:労働者の負担が重くなる場合に上乗せされる報酬

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親戚の集まりで社労士の「おじさん」がいろいろ説明していくシリーズです。

アイコンデザイン:こなか かのこ様

文中の図をクリックすると拡大できます(例外あり)。


はじめに


今回は割増賃金の話などを。



残業代のことですね。



残業、つまり時間外労働をしたときも割増賃金が発生するんだけど、それだけじゃないんだよね。



休日出勤もそうだよな。



そうそう。
休日労働も割増賃金が出るんだよね。
あと一つあるんだけどな……



夜のシフトに入ったときでしょ?



そのとおり。
深夜労働も割増賃金の対象だね。



深夜手当も、残業代や休日手当の仲間なんですね。



うちは夜勤ないからな……



このへんは、時給で夜勤もしている学生さんのほうが敏感かもね。



そうかも。



というわけで、割増賃金が出るのは「時間外労働」「休日労働」「深夜労働」の3パターンですね。
それぞれ、どんな仕組みなのか、これから説明していきます。


割増賃金の意味


残業・休日出勤・夜勤……労働者としては、どれもあんまりやりたくないですね。



だよね。
要するに、「長時間働く」「休みなしで働く」「普通は寝る時間に働く」ってことなので、それだけ労働者には負担になるんだよね。



そう考えると、多めに給料もらわないとやっていられないですよね。



雇っている側からすると、「残業も休日出勤もしないで、なるべく時間内に終わらせてほしい」ってことになるんだわ。



それも狙いなのよ。



というと?



例えばだけど、時給1,000円の人が月に160時間働くと、月収16万円になるよね。



ええ。



それに加えて40時間の時間外労働をすると、4万円じゃなくて1.25倍の5万円が加算されるのね。
なので、合計で21万円になるのよ。






1万円が割増分なんですね。



そう。
これ、労働者としては「がんばったんだから1万円多くもらえて当然」ってなるんだろうけど、経営者としては、「40時間分の生産量なのに50時間分の給料を払うのかよ」って印象になるよね。



まあ、正直。
だから残業はなるべく減らしてほしいんだよな。
時間が長くなると、疲れてきて効率も落ちるし。



だよね。
なので、使用者が「なるべく長時間労働や休日労働をさせたくない」と考えるように仕向ける効果があるんだね。



なるほど。




割増賃金の計算方法


さっき、さらっと「1.25倍」って言ったけど、改めて計算方法を説明してみるね。



だいたいわかっているつもりですけど……。



まあまあ。
わりと細かい話になるから。



へえ。


時間外労働と割増賃金


まずは、時間外労働をしたときの計算方法ね。
そもそもなんだけど、残業したからといって、必ず時間外の割増しが出るとは限らないのよ。



どういうことです?



これは、法定労働時間と関係してくるのね。



8時間と40時間てやつですね。



そうそう。
1日8時間と週40時間のどちらを超えても時間外ってやつね。



そうか、会社の定時が8時間じゃなかったら、「残業したけど時間外じゃない」ってこともあり得るのか。



そのとおり。



どういうこと?



例えば、9時から17時までの勤務で休憩1時間の会社があったとすると、所定労働時間は7時間になるのね。






うんうん。



この会社で、1時間残業して18時まで働いたとしても、合計8時間なので法定労働時間に収まっているのよ。






なるほど。



で、さらに1時間残業して19時まで働くと、合計9時間になるよね。
会社のルールからすると2時間の残業なんだけど、法定労働時間の8時間を超えているのは1時間だけだと。






そういうことか。



時給1,000円の人の場合、定時上がりなら7時間勤務で7,000円、残業1時間だと8時間勤務で8,000円、そして、残業2時間で9時間勤務になると、1,250円プラスして9,250円になるんだね。






あんまり意識したことなかったですね。



所定労働時間が8時間だったら、「残業=法定時間外」になるからね。



そういうことか……。



で、この法定時間外の部分が、1.25倍になるんだね。



なるほど。



ただ、法律で決められた最低限が2割5分増しなので、3割増しの1.3倍とかでもいいのよ。
もっと増やして、5割増しの1.5倍とかでも。



えげつないな……



まあ、極端な話ね。
でも、月の時間外労働が60時間を超えると、その部分は50%増しの1.5倍になるからね。
時給1,000円だったら、1,500円になる計算だよ。



そうなの?
まあ、うちは60時間もいくことはないと思うけど。



もっとも、今は大企業だけの話で、中小企業も5割増しになるのは2023年の4月からなんだけどね。
まだまだ先の話だと思っていたけど、気づいたら「そろそろ」だね。



それだけ国が残業を減らしたがっているってことだな。



まあ、世の中の流れってやつですかね。
ちなみに、「50%増の部分を25%で済ませる代わりに、時間数×25%の有給休暇を」みたいなやり方もあるんだけど、ややこしくなるんで省略しますね。



了解です。


休日労働と割増賃金


次は休日労働したときの計算方法ね。
こちらも前提として、法定休日と所定休日の違いを考えないといけないのよ。



土曜日と日曜日の違いですね。



うん。
曜日は会社が選べるんだけど、法定休日は週に1日なので、それ以外は所定休日になるんだね。
で、所定休日が出てくるのは、前に話したとおり労働時間との兼ね合いだね。



1日8時間だと、月から金までの5日間で40時間になるので……ってやつですね。



そうそう。






例えば、法定休日が日曜日で、土曜日は所定休日の職場があるとするよね。



ええ。



この場合は、日曜日に出勤すると休日の割増賃金が出るのよ。
法定の割増率は時間外よりも高くて、3割5分増しだね。






人件費35%アップか……



大きいよね。
その分、労働者は稼げるわけだけど。



まあ、休みが潰れるわけですから……。



ちなみに、土曜日に出勤した場合は法定休日労働にならないので、3割5分増しにはならないよ。



なんとなく、損している気分ですね。



ただ、月から金で40時間働いているんだったら、土曜日の分は丸々時間外労働になるので、2割5分増しにはなるよね。






あ、そうか。



さらに掘り下げてみると、所定労働時間が6時間の職場の場合、土曜日まで出ても週の合計が36時間になるよね。



ええ。



これだと、1日8時間も週40時間も超えていないでしょ。



ええ。



で、週1日の休みも取れているので、割増賃金は一切出ないのね。






たしかに。



でも、土曜日は休んで日曜日に出ると、同じく合計36時間なのに、日曜日の分は3割5分増しになるのよ。






時間数は関係ないんですね。



そういうこと。
まあ、実際に土曜日を休みにするんだったら、日曜日の「振替休日」ってことにすると思うんだ。
そうすると、「週に1日の休みが取れているので、割増賃金を払わなくてもOK」ってなるのね。



うまく逃げられた感じですね。



まあ、ちゃんと手続きを踏まなくちゃいけないし、そもそも事前に振り替えなくちゃいけないんだけどね。
例えば「日曜日に出た分、次の週の月曜日は休んでいいよ」みたいな場合は、やっぱり日曜日の労働に対して割増賃金の支払いが必要になるね。
こっちは振替休日じゃなくて「代休」ってやつね。



緊急で休日出勤してもらうんだったら、割増賃金を払うのが無難そうだな。



だね。



僕らも本当は、日曜日に出たら割増賃金をもらえるのかな?



パートさんの場合は、固定の曜日を法定休日にするんじゃなくて、シフトで決めるのが主流だと思うんだ。
なので、7日連続勤務とかにならない限り、休日出勤には該当しないと思うよ。



そっか……。



労働者に連続勤務をさせないようにするための制度だろうからな。



だね。


深夜労働と割増賃金


最後は、深夜労働をしたときの計算方法ね。



深夜もやっぱり、基本は労働させちゃいけないんですかね?



いや、子どもとか子育て中の人とかの例外はあるけど、深夜労働自体は問題ないのよ。



その時間でしかできない仕事もあるだろうしな。



だね。
ちなみに、「深夜」に当たるのは、22時、つまり夜の10時から朝5時までの時間帯ね。






たしかに、夜の10時を過ぎると深夜手当が付きますね。



でしょ。



ん?
そのまま徹夜で仕事をして、5時を過ぎちゃった場合はどうなるんです?



当然といえば当然なんだけど、深夜の割増しは付かなくなるね。
まあ、そこまで残業させちゃう時点で、いろいろ問題なんだろうけど。



ですね。



ちなみに、「22時から出勤」って場合は、朝7時まで働いても8時間に収まるので、時間外の割増しは発生しないよね。



ええ。



なので、「5時から7時の、最後の2時間の賃金のほうが低い」ってことになるのよ。






なんか妙な感じですね。



時間外と深夜の考え方は、まったく別物だからね。
考え方としては、「深夜の時間帯は時間数や曜日に関係なく割増しが付く」って感じかな。



夜勤だと、働き始めた瞬間から眠いときとかあるもんね。



おいおい……



まあ、本来は眠る時間だろうからね。
なので、時間外や休日とは別に割増賃金が出るんだね。



残業手当と深夜手当って、ダブルでもらえるんですよね?



うん。
「残業していたら10時過ぎちゃった」って場合は、時間外の2割5分と深夜の2割5分を足して5割増しだね。
時給1,000円だったら1,500円になる計算よ。



1.25×1.25って考え方じゃダメなんだな。



うん。
さっき言ったとおり、深夜は別枠で25%を追加するイメージかな。
なので、日曜日の仕事が深夜の時間にかかるんだったら、3割5分と2割5分で、合計6割増しになるわけよ。






ええと……日曜日の夕方から、8時間を超えた部分は時間外にならないんですか?



うん、ならないのよ、これが。
休日に何時間働こうが、それはあくまでも休日労働なんですよ、ということね。



そうなんだ……。


割増しの基礎となる賃金


そもそもなんだけど、「割増しのベースになる賃金はどうやって計算するか」って話もあるのよ。



言われてみると、あんまり考えたことないですね。



時給そのままじゃないの?



時給の場合は、そのままで問題ないと思うよ。
日当だったら、1日の所定労働時間で割ることが多いでしょ。



月給は複雑になるんだよな。



だね。
月によって勤務日数が違うので、まずは年間の所定労働日数に時間数を掛けて、年間の所定労働時間数を計算すると。
で、それを12で割って月平均の時間数を出して、それで月給を割るのが基本かな。



うーん。



例えば、年間240日勤務で1日8時間だと、240×8で1,920時間が、年間の所定労働時間になるよね。






うん。



これを12か月で割ると、月の平均が160時間になると。






ふんふん。



で、月給32万円の人だったら、それを160で割ると時給2,000円になる計算だね。






なるほど。



でも、年間の所定労働日って、どうやって計算するんですか?



カレンダーに書いて数えていってもいいんだろうけど、365日から休日の日数を引くのが一般的なんじゃないかな。



なるほど。



あと、問題になるのは手当の部分ね。
例えば、通勤手当が定期券の実費で出ているとして、それも割増しになったらおかしいでしょ?



家が遠い人ほど得しますね。



そりゃあ、ないわな。



でしょ。
なので、通勤手当とか家族手当とか、仕事と関係なく支給されているようなものは、割増賃金の計算から除かれることになるのよ。



へえ。



ただ、「通勤手当は家の場所に関係なく一律でいくら」みたいな運用だと、計算に含まれる可能性が高いかな。「それって、基本給の上乗せでしょ」みたいな感じで。



なるほど。
手当と名付けて賃金を抑えようとするのを防いでいるわけね。



だね。


固定残業代


そういえば、残業手当って1時間単位で付きますよね?
これだと、59分残業した日とかは、損した気分になりますよね。



いやいや、基本は1分単位で計算しないといけないのよ。
でも、それだと細かくなりすぎて面倒なので、1か月分をまとめて「30分未満は切り捨てる代わりに30分以上は切り上げ」というやり方は認められるのね。



なるほど。
結果的に、給料明細の表示は1時間単位になると。



だね。
あと、「そもそも計算が面倒なので残業代は定額で」ってやり方もあるね。
「固定残業代」とか「定額残業代」とか、「みなし残業代」なんて呼ばれることもあるかな。



ああ、いくら残業しても残業代が増えないんですよね。友だちの会社がそうだって言ってましたよ。



いやいや、そうじゃないから。



そんなことできるんだったら、悪用する経営者がいくらでも出てくるだろ。



まあ、可能性はあるよね。
固定残業代っていうのは、あくまでも、「一定の時間数までは残業代を固定で」ってやり方なのよ。
なので、その「一定」を超えた分は、追加で賃金を支払う必要があるよね。



そうなんですね。



例えば、年間の休日が113日、つまり勤務する日数が252日の会社があるとするよね。
それだと、月の所定労働時間が168時間になるのよ。



ええ。



時給1,000円で計算すると、168,000円が基本給になるよね。



ですね。



ここに30時間分の固定残業代を追加するなら、1,250×30で37,500円が必要になると。
これを合計して、「月給205,500円(固定残業代30時間分を含む)」みたいになるのね。






ほうほう。



で、仮に40時間の時間外労働が発生したとしたら、30時間を超えた分の10時間に割増賃金の1,250円を掛けて、12,500円が追加されるわけ。



なるほど。



逆に、残業がまったくない月でも、固定残業代は払わなくちゃいけないんだよな。



もちろん。
残業が多い月と少ない月を相殺するようなこともできないんだよね。






そこが難しいところだよな。



だね。
経営者としては、「時間外労働はこれ以上させない」ってラインで設定するのがいいんじゃないかな。
従業員からすると「実際の残業時間が少ないほどお得」ってことになるので、だらだらと残業することも減るんじゃないかと。



どうせ給料が変わらないんだったら、早く仕事終わらせて帰りたいですもんね。



そうそう。
さっきの例だったら、集中して残業なしで仕事を終わらせたら、30時間分のボーナスがもらえるような感覚よ。



実際は、早く終わらせたら次の仕事が降ってくることも多いんですけどね。



まあ、あくまでも理想的な活用法ということで……。


賃金台帳を含む法定三帳簿


割増賃金の話の最後に、「賃金台帳」について説明しておくね。



何それ?



使用者が作らなければならない帳簿の一つだね。
他にもいろいろあるんだけど、「労働者名簿」と「出勤簿」、そしてこの「賃金台帳」を合わせて、「法定三帳簿」なんて呼ばれるんだ。



へえ。



わざわざ法律で決めているんですね。



うん。
「誰が」「どれくらい働いて」「それに対していくら賃金が支払われたか」の記録になるわけだけど、これを保存しておくことが義務付けられているのね。



まあ、大事だってことはわかるけど……。



例えばだけど、ある労働者が会社に対して、「ちゃんと給料払われていない気がするんですけど」ってなったとするよね。



恐いな。



例えばの話ね。
で、そのときに会社が「証拠ないから」ってなったら、労働者が困るでしょ。



困りますね。



なので、使用者が記録をちゃんと付けて、一定期間は保存しておかないといけないんだね。






なるほどね。


おわりに


そんなわけで、今回は割増賃金と法定帳簿について説明してみました。労働者が通常よりも負担のかかる働き方をした場合は、通常よりも増額された賃金を受け取ることができるんだね。だから使用者も、労働者に負担のかかる働き方をなるべく減らそうとする……はずだと。あと、賃金計算の根拠として、賃金台帳などの帳簿を作って保存する必要があるんだね。



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