退職のルール:自己都合と会社都合の大きな違い

<設定>
親戚の集まりで社労士の「おじさん」がいろいろ説明していくシリーズです。

アイコンデザイン:こなか かのこ様

文中の図をクリックすると拡大できます(例外あり)。


はじめに


今回は退職の話をしようかと。



また、重い話だな。



まあ、避けては通れないテーマなので……



たしかに。



まず、そもそもなんだけど、「いつまで働くのか」って考えたことある?



オレは年取って働けなくなるまでだろ。



まあ、社長さんはじめ、会社の役員はそもそも労働者じゃないからね。
ちなみに、従業員が取締役とかの役員になったときも、退職する可能性があるよ。



じゃあ、専務とかは、すでに退職しているんですか?



会社にもよるけど、可能性はあるね。
社内で出世して役員になった人は、役員に就任するときに退職する場合もあるのよ。
役員と会社は委任契約を結ぶことになるので、その時点で雇用契約を終了させると。



へえ。



まあ、これはどちらかというと特殊なパターンかな。
もっと一般的なものが出てくると思うんだけど……



やっぱり定年ですかね。



うん。王道だね。



途中で辞めちゃう人もいるでしょ?



もちろん。



同期でも、もう転職したやつが何人かいますよ。
あと、会社辞めて学校に入り直したのもいますね。



うん。
他の会社に移ったり学校に通うようになったり、あとは辞めてしばらくぷらぷらするような人もいるだろうね。



オレみたいに、独立するパターンもあるだろ。



だね。
共通しているのは、「自分の意思で退職する」という点かな。
つまり、労働者からの働きかけで雇用契約が終了するパターンね。



そっか、反対に、会社からクビにされちゃうこともあるのか。



そうなのよ。
会社からの働きかけで雇用契約が終了するパターンもあるんだね。



さすがに、クビになった同期はまだいないかな。



まあ、そう簡単にできるものじゃないからね。



だよな。



そんなわけで、大きく分けると「定年など一定期日の到来」「自己都合」「会社都合」の3つになるかな。
他には、さっきの役員就任に加えて、労働者が亡くなってしまう場合や会社が倒産してしまう場合なんかでも雇用契約が終了するんだけど、これは例外的なパターンなので説明は省きますね。



了解です。

 



3つのパターンいずれも、いわゆる「正社員」と「非正規社員」で扱いに違いがあるので、それぞれ2つに分けて説明したいんだけど、その前提として「正規」と「非正規」の違いを押さえておきますね。



ええ。


(補足)正社員と非正規社員の違い


これはよく、フルタイムかパートタイムかで語られると思うのよ。
週に40時間働くフルタイム労働者が正社員で、週20時間とかのパートタイマーは非正規、みたいな。

 



ですね。



でも、労働法の話をするときは、「雇用契約に期間の定めがあるかどうか」で判断されるのが一般的なのね。



どういうこと?



有期雇用、つまり、「何年何月何日まで」という「期間の定めのある雇用契約」を結んでいる場合は、パートタイマーはもちろん、フルタイムの労働者でも非正規になると。



フルタイムで期間限定か……。



代表的なのは、いわゆる「契約社員」という人たちかな。



ああ、なるほど。



逆に、期間の定めのない雇用契約で、つまり、「いつまで」という期限を決めずに働いているのが正社員、という考え方なんだね。

 



終身雇用というやつですね。



そうそう。有期雇用に対して無期雇用なんて言い方もするね。
まあ、期間の定めがなかったとしても、短時間勤務のパートさんはあくまでも非正規で、フルタイムで無期雇用の人だけを正社員とする考え方もあるんだけど。



普通はそういうイメージじゃないかな。



かもね。
まあ、今回は退職の話なので、「雇用契約に期間の定めがない正社員」と「期間の定めがある非正規社員」に分けてみますね。

 



了解です。


一定期日が到来したことによる退職




では、改めまして。
1番目のパターンは、一定期日の到来による退職ね。



前置きが長かったな。



すみません。


正社員における期日到来(定年)


まずは、正社員の場合。
正社員は労働契約の終わりが決まっていないわけだから、放っておくといつまでも働くことになっちゃうよね。



困りますね。



雇うほうも困るって。



なので、例えば「60歳に達した月の月末まで」みたいな決まりを作るのよ。
これが「定年」だね。



大学の先生は60歳以上の人も多い気がするけど……。



ああ、定年を60歳より上にするのは問題ないのよ。



下にするのは問題なんですか?



そうなのよ、これが。
法律で「60歳を下回ることができない」と決まっているのね。



へえ。



ただ、実質的には、65歳までは雇うことになるんじゃないかな。



どういうことです?



60歳以降であれば定年を設定できるんだけど、65歳までは「雇用確保措置」というのが義務付けられているの。
なので、60歳で定年になって退職金をもらった人が、同じ会社に再雇用されて65歳まで働くようなパターンが出てくるんだね。

 



ああ、嘱託社員のことですかね。



そうそう。「嘱託になる」なんて言われることも多いよね。
要するに、正社員としては60歳の定年で一旦退職する。で、給料とかの条件を見直して、改めて雇用契約を結ぶと。



たしかに、嘱託になった人たちは「給料減った」って言っていますね。



まあ、減らさなくちゃいけないわけじゃないんだけど、そういう運用が主流みたいだね。



へえ。



で、これが2021年4月からは、70歳まで延びるのよ。
これは「就業確保措置」といって、さっきの再雇用などに加えて創業支援、例えば会社から独立した人に一定の仕事を回すようなやり方も入るのね。
でも、結局は今も主流の継続雇用、つまり再雇用を選ぶ企業が多いだろうと言われているね。

 




65歳まで会社員だった人が起業するのは勇気いるよな……。



会社の側も「どうやって支援すれば……」ってなるだろうし、なかなか難しそうだよね。
ちなみに、まだ努力義務なので「70歳まで延長するように努めなさい」というレベルなんだけど、いずれ義務になるだろうって話だね。



大学出てから50年近く働くことになるんだ……



そう考えると、長いよね。
言ってしまうと、「引退して年金で暮らせるようになる年齢」がどんどん上がっているってことだね。



少子高齢化の影響ですよね。
これ、70歳で止まるんですかね?



どうなんだろうね……。
ちなみに、会社が定年を設定しない選択肢もあるんだけど、その場合は労働者と使用者のいずれかが「もう止めよう」って言い出すまで雇用契約が続くことになるんだ。



そう考えると、どこかで区切ってもらったほうが気分的にラクかもしれませんね。



かもね。


非正規社員における期日到来(期間満了)


次は非正規の場合ね。
非正規雇用は、さっき説明したように期間の定めのある労働契約を結んでいるので、期限が来たら契約が終了するんだね。



契約社員で何年も働いている人もいますけど、10年とか20年とかの契約なんですかね。



いや、労働契約の期間は、原則は最長で3年なのよ。でも、3年だと雇う側から見ても長いってことで、契約社員の場合は1年契約の人が多いんじゃないかな。



じゃあ、10年とか働いている人は違法なんですか。



いやいや、契約の更新ができるのよ。
なので、1年契約を更新し続けて10年も20年も働く人が出てくるんだね。

 




だったら最初から期限なんていらないんじゃないの。



まあ、結果的に長期間働き続ける人も出てくるんだけど、期限を切っておくことで、更新するかどうかを判断する機会にはなるからね。



労働者からしても、「次の期限が来たら辞めるか」みたいな目安になるでしょうね。



会社としても、いきなり「辞めます」って言われるよりも助かるかな。
新しい人を探すのも簡単じゃないからね。



だよね。
契約期間の満了日まで余裕がある時点で、労働者と使用者が「次の更新はなしで労働契約を終了しましょう」と合意するのが、理想的な流れなんじゃないかな。


自己都合による退職


2番目のパターンは、自己都合退職だね。
労働者から「定年や期間満了を待たずに辞めます」と言い出す場合。



さっきも言ったけど、いきなり言われると困るんだよな……。



もちろん、一定のルールはありますよ。
これも正社員と非正規社員に分けて説明しますね。



ああ。


正社員における自己都合退職


まずは、正社員が定年より前に「辞めたい」となった場合ね。
まあ、ルールといっても、「退職の何日前までに伝えなければならない」くらいの決まりしかないんだけど。
ちなみに、労働法だと何日前になっていると思う?



1か月くらいじゃないか。



労働者の保護を考えたら、もっと短くなりそうな気はするけど……。



1週間前とか。



これはね、言ってしまうと「いつでもOK」なんだね。



え?
じゃあ、「あしたから来ません」も通用するの?



いやいや、それはさすがに困るので、ここは民法も関係してくるのよ。
結論からいうと、2週間前までだね。



引っかけかよ。



そういうわけじゃないんだけど、ここで言いたかったのは「いつでも辞表は出せる」ってことね。
で、辞表を出したら遅くても2週間後には退職できると。



ああ、そういうことか。



あと、退職の理由には特に制限がないので、「一身上の都合により」というのが通用するんだね。



なるほど。



これって、必ず2週間は待たないといけないんですか。



お互いに合意していれば、縮めることもできますよ。
「じゃあ、きょうで契約終了ね」みたいな感じで。

 




それもなんかイヤですね……。
辞めるって言い出すの待っていたみたいで。



まあ、極端な話ね。



逆に延ばすことはできないのかな。
就業規則に「1か月前までに伝えなければならない」とか書いて。



これは諸説あるようだけど、長くても30日くらいが限界みたいだね。
でも、2週間を超えて設定していると、争ったときに不利になるんじゃないかな。
労働者からすると「辞めさせてくれなかった」ってことになるので。



やっぱり厳しいねえ。



ちなみに、ちょっと前までは「月給制の人だったら賃金計算期間の前半に伝えないと1か月先送りに」みたいな決まりがあったんだけど、民法改正でこの条件は「使用者からの解約の申入れ」に限定されたのよ。なので、労働者は2週間ルールだけ考えればよくなったんだね。



へえ。



いずれにせよ、最終的にはお互いに合意して「じゃあ、何月何日で契約終了ですね」ってなるのが理想だろうね。
「依願退職」なんて呼ばれるやり方。



ああ、人事からのお知らせとかで見たことがある気がします。



「営業2課の鈴木さん、3月31日付で依願退職」みたいな?



そうそう。



要するに円満退社ってことなんだけど、これに対してさっきの2週間ルールは「会社が退職を認めなくても2週間経ったら契約終了」ということなので、あまり望ましい展開ではないと。

 




まあ、揉めるくらいなら退職を認めるのが無難だよな。



だよね。


非正規社員における自己都合退職


次は非正規社員が自己都合退職する場合。
期間の定めのある労働契約を結んでいる労働者が、その期限よりも前に「辞めたい」となったときの話ね。



会社としては、「せめて期限まではがんばってよ」と言いたいところかもね。



だよね。
なので、正社員よりもちょっと厳しい設定になっているのよ。
正社員の場合は「一身上の都合」でよかったけど、非正規の場合は「やむを得ない事由があるときは」という制限があるのね。これも民法で決まっているんだけど。



期限が来たら辞められるんだから、それまでは我慢しなさい、ってことですかね。



「この日まで働きます」って契約しているんだから、ある程度は責任持ってもらわないとな。



まあ、そうだよね。
ただ、契約だからといって長い期間にわたって退職を制限したら、労働者が困るでしょ。
なので、2年や3年の契約、というか1年を超える契約を結んだ場合は、「契約期間の初日から1年を超えたらいつでも退職できる」という決まりもあるのよ。
さっきの「2週間ルール」が影響するので、実質的には「2週間前までに申し出て」ということになるんだけど、やっぱり「一身上の都合」でOKになるのね。

 




へえ。


会社都合による退職


3番目のパターンが、会社都合による退職ね。
会社から「定年や期間満了はまだ先だけど辞めてください」と言い出す場合。



これは厳しいんだよな。



そうだね。
会社の都合で「明日から来なくていいよ」みたいなことができたら労働者の生活が不安定になってしまうので、ここは特に厳しく制限されているんだ。
やっぱり正社員と非正規社員で違いがあるので、それぞれ説明してみるね。



ああ。


正社員における会社都合退職(解雇)


まずは、正社員に辞めてもらうとき、つまり解雇の話ね。



「You’re fired!(お前はクビだ)」みたいな?



まあ、言ってしまうと、そういうことだよね。



そんな簡単な話じゃないだろ。



だね。
一応、法律上は「労働者を解雇しようとする場合は、少なくとも30日前に予告をするか、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない」という決まりになっているのよ。
でも、実際には「解雇の有効性」というのが厳しく問われるので、「30日前までに予告すればOK」とはいかないんだよね。

 




だよな。



あと、一口に「解雇」といってもいくつか種類があるので、ちょっと分けて説明してみますね。



ああ。


整理解雇


一つ目は「整理解雇」ね。
これは会社が経営難のときなどに従業員を減らすパターン、いわゆる「リストラ」というやつだね。



やむを得ないよな。



うん。
でも、「経営難だから」だけで通ったら悪用する人も出てきちゃうので、やはり厳しい基準はあるわけ。



というと?



整理解雇の4要素とか4要件と言われるものなんだけど、大まかに分けて4つの基準から解雇の有効性を考えていくんだ。
「人員削減の必要性」「解雇回避努力義務」「対象者選定の合理性」「手続きの妥当性」の4つね。



どういうこと?



平たく言うと、「本当に経営難なのか」「他に方法がないのか」「対象者は適当か」「きちんと話し合ったか」みたいな感じかな。
労働者が「不当解雇だ」って訴えたときに、裁判などでこの4要素を中心に見ていくんだね。



へえ。


懲戒解雇


二つ目は「懲戒解雇」ね。
言ってしまうと、「悪いことしたからクビ」って感じかな。



これもやむを得ないだろ。



まあ、ね。
ただ、これもそう簡単にはできないのよ。
例えば、「会社のお金を横領した」とか「無断欠勤が2週間以上続いている」とか、そういうケースが代表的なものかな。



1週間の無断欠勤なら許されるってことですか。



まあ、一概に「1週間ならセーフで2週間ならアウト」とは言えないんだけど、会社が設定していたルールなどと照らし合わせて、判断していくことになるかな。
懲戒解雇の場合は、30日前の予告を省略できる可能性もあるし、退職金が出なくなることもあるので、「よほどのことでないと」という考え方にはなるよね。



なるほど。


普通解雇


三つ目は「普通解雇」ね。
先の二つのような特殊な事情はないけど、労働者に辞めてもらう場合。



特殊な事情がなくてもいいんですか。



まあ、整理解雇や懲戒解雇に比べれば、という感じかな。
もちろん、ちょっとやそっとのことでは、解雇はできませんよ。



そりゃあ、そうだろ。



例えば、病気になってしまって働けない場合なんかが、代表例になるかな。
ちなみに、仕事のせいで病気になった場合は、解雇できない決まりがあるのよ。



そういう場合は会社が責任を負えってことか。
でも、一生面倒見ないといけないの?



いや、労災保険が出ていると、3年経ったところで解雇できるようになる可能性もあるのよ。



まあ、ケガも含めて、労災は起こさないように気を付けないとな。



だね。
他には、労働者の能力不足なども普通解雇の理由にはなり得るんだけど、これも争いになった場合は「ちゃんと教育したのか」みたいな点が厳しく問われることになるんだ。



いずれにせよ、会社都合で辞めてもらうのは簡単じゃないと。



そういうことになるかな。

 


非正規社員における会社都合退職(雇止め)


今度は、会社都合で非正規社員に辞めてもらうときの話ね。
自己都合の場合と同じように、契約期間があるだけに、その期限を待たずに契約を終了するのは難しいんですよね。
解雇に関しては、むしろ、正社員よりも厳しく判断されることになるみたい。



それこそ、「せめて期限までは責任持って面倒みなさい」ということだろうな。



だね。
なので、有期契約の労働者に辞めてもらいたいときは、期限まで待ってそこで労働契約を更新しない、という判断になるかな。これを「雇止め」というんだ。



じゃあ、期限が来たときに会社から辞めてくれって言われたら、労働者は辞めるしかないんですかね。



そこは揉めるところだよね。
「元々そういう契約、つまり、期限が来たら終了する予定だった」ということであれば、反論は難しいかもしれないね。
でも、「周りの人は更新しているのに、自分だけ……」とか、「これまで何回も更新されていたのに、いきなり……」みたいな状況だと、雇止めが無効になる可能性もあるかな。



なるほど。


退職時に起きやすいトラブル


解雇や雇止めに限らず、退職というのは労働者はもちろん使用者にとっても重大なことなので、やっぱりトラブルが起きやすい局面ではあるよね。



あんまり考えたくない話だな。



まあね。
でも、典型的なパターンがいくつかあるので、一応、紹介しておきます。


本人は辞めたいが会社が辞めさせたくない場合


まずは、労働者は辞めたいのに使用者が引き留めようとするパターンね。

 




これはもう、諦めるしかないよな。



まあ、説得しちゃいけないわけではないんだけど、無理やり引き留めることはできないよね。



でも、「会社が辞めさせてくれない」みたいな話ってありませんか。



そう思っている人は多いかもしれないけれど、実際に争ったら労働者が圧倒的に強いのよ。



そうなんですか。



というのも、昔の悪質な事例を受けて、強制労働がひじょうに厳しく制限されるようになったからなんだね。



『蟹工船』みたいな?



お、よく知っているねえ。
あれは自分の意思で働いていた人もいたみたいだけど、今だったらまず通用しないだろうね。
それはともかく、強制労働の禁止は現代でも厳しく罰せられるものなので、ここでちょっと説明しておきますね。


強制労働の禁止


まず、労働基準法の第5条に「強制労働の禁止」が定められていて、罰則もかなり重いのよ。
懲役だったら最低でも1年ということで、「労働法で最も重い罪」なんて言われることもあるね。



そうなんだ。



まあ、現代ではあまり聞かない話だけど、「仮に、そういうことしたら」ってことね。



これは、肝に銘じておかないとな。



うん。
で、「強制労働」とまでは言えないものの、無理やり働かせることにつながるようなやり取りも、労働基準法では禁止されているのよ。



例えば?



まず、「賠償予定の禁止」というのがあって、「辞めたらお金をもらいます」みたいな設定はできないのね。



当たり前じゃないの?



まあ、そうなんだけど、これが売買、つまり物の売り買いだったら、「これから3年間、毎月商品をお届けします」という約束だったのに、途中で「やっぱり用意できません」となったら、「話が違うじゃないか、賠償しろ」みたいなこともあり得るでしょ。

 




たしかに。



でも、これを労働契約に置き換えると、「これから3年間、ちゃんと働きます」という約束をしていたのに途中で「やっぱり辞めます」という話になるのね。
で、そのときに「契約違反の場合は100万円払うことになっていたよね」なんて言われたら、辞めたくても辞められなくなるかもしれないでしょ。



なるほど。



こんな感じで、労働者の身分を拘束してしまうような取決めは禁止されているんだね。

 




へえ。



他には「前借金相殺の禁止」というのもあって、「借金のカタに働いてもらうよ、毎月の給料から少しずつ返してもらうから」みたいなこともできないのね。これだと、返し終わるまでは辞められなくなっちゃうでしょ。



他の仕事をして借金を返せばいいんじゃないの?



まあ、冷静に考えたらそうなんだけど、借金している弱みにつけ込まれると、なかなか逃げられないんだろうね。
法律ができるくらいだから、昔はこういう事例も多かったんじゃないかな。本人の借金だけでなく、「親父さんの借金のカタに娘を売り飛ばして……」みたいな話とか。



『おしん』の世界だな。



何それ?



そういうテレビドラマがあったのよ。
暮らしていけなくて、まだ小学生くらいの娘を働きに出すの。



へえ。



あと、「強制貯金」も禁止されているよ。
例えば、毎月の給料から5万円ずつ引いて振り込んで、「無駄遣いしないように、5万円は会社が貯金しておくから」みたいな感じ。



ダメなんですか。



うん。
労働者が会社に人質を取られちゃうようなものでしょ。
そういう悪質なことをする使用者は、辞めてもらっても構わない状況になるまで貯金を下ろさせないようなこともあるからね。



なるほど。



いずれも、労働者が辞めたくても辞められない、つまり、労働者の身分を拘束するような流れになるので、禁止されているんだね。


やむを得ない事由の判別


そういえば、非正規の人たちは、「契約の期限より前に辞めるのが難しい」という話でしたよね。
無理やり働かせることがこれだけ厳しく制限されているのに、引き留めることができるということですか。



たしかに、期間の定めのある契約で1年経っていない場合は、退職するのに「やむを得ない事由」が求められると説明したよね。

 




でしたよね。
でも、「やむを得ない」って、どれくらいのレベルなんですかね。



例としては、「体調不良」や「家庭の事情」などが挙げられるんじゃないかな。



そういった事情がない場合は引き留められると。



そうとは限らないんだけど、交渉の余地はあるだろうね。
あと、例えば、その人がやむを得ない事由もなく辞めた影響で仕事を取りこぼしてしまった場合などは、会社から損害賠償を請求されるようなことがあるかも。
賠償予定、つまり「辞めたらいくら」は禁止されているけれど、実際に損害が出たときに賠償できないわけではないので。



あんまり現実的じゃなさそうだな。



そうなんだよね。
そもそも個人が賠償できる可能性も低いだろうし。



かといって、「君が辞めたら会社に損害が」みたいな説得で無理やり引き留めたところで、やる気のない社員が職場にいること自体が問題になりそうだしな。
やっぱり、一時的に迷っている場合なんかはともかく、本人が「辞めたい」と言ってきたときは、会社としては退職を認めるのが無難だろうね。



そう思うよ。



「もう転職先も決まっています」なんて言われたら、どうしようもないしな。



だね。


競業避止義務


転職といえば、たまに聞くのが、「『同業他社には転職しません』って一筆書かされた」みたいな話ね。



ああ、友だちから聞いたことありますね。



競業禁止とか競業避止義務なんて呼ばれるんだけど、職業選択の自由にも関わってくるので、幅広く認められるわけではないんだよね。



程度の問題ということか。



そうそう。
専門的なノウハウを持っていて待遇もそれなりだった人なんかは、「しばらく競業は控えてくれ」という約束にも合理性があるよね。
もちろん、期間や地域的な範囲にもよるんだけど。



じゃあ、僕らみたいに総合職で平社員だと、あまり気にせず、自由に転職しちゃっても構わないんですかね。



まあ、そういう傾向があるってことね。


会社は辞めさせたいが本人が辞めたくない場合


今度は逆に、会社は辞めてもらいたいのに、労働者は辞めたくないパターンね。

 




これ、揉めると本当に大変みたいだな。
うちはさいわい、そういう経験ないけど。



うん。
会社が「辞めてくれ」と言っているのに労働者が合意しなかったら、最終的には解雇することになるわけだけど、さっき説明したとおり解雇はかなり厳しく制限されているからね。
争いになったら、労働者が圧倒的に強いのよ。



具体的には、会社はどんな責任を負うことになるのかね。
不当解雇だから賠償金払えって言われるの?



というより、解雇を言い渡された従業員が訴えを起こすとしたら、「解雇は無効だから、私はまだ社員のままですよね。なので不当に休ませた分も含めて賃金を払ってください」みたいになるらしいのよ。



そりゃあ、きついな。



で、裁判で会社が負けたら、当然、その賃金を支払わなければならないと。
しかも、裁判は数年がかりになることも珍しくないので、その間の給料を払わされる可能性があるみたい。もちろん、弁護士費用なんかもかかるだろうからね。



いやあ、考えたくもないね。



だよね。
揉めた挙げ句に解雇するとなると、こじれる可能性も高くなるので、やっぱり話し合いで合意退職に持っていくのが無難だと思うよ。
解雇はハードルが高いけれど、「経営が厳しいので今辞めてくれたら退職金も上乗せしますよ」みたいな感じで退職勧奨することは問題ないからね。もちろん、強引な退職勧奨はトラブルになりがちだけれど。



やっぱり信頼関係が大切なんだよな。



だね。
 


おわりに


そんなわけで、今回は退職について説明してみました。過去には強制労働が横行していた時代もあったようで、その反動からか、労働法は労働者の身分を拘束することに対して厳罰を定めているんだね。だから、労働者の都合で退職する場合は、わりと幅広く認められるのに対して、使用者の都合で退職となると、かなり厳しく制限されるんだ。
 

関連記事

  1. 割増賃金:パターン別の割増率と計算方法

  2. 法定労働時間・みなし労働時間制と変形労働時間制

  3. 入社時のルール:募集・採用と労働契約の成立

  4. 賃金支払い5原則

    働いたらもらえるお金:賃金支払の5原則と最低賃金

  5. 法定休日と所定休日

    労働から解放される日:法定休日と年次有給休暇

  6. 使用者と労働者の意味、労働基準法等の労働法がある理由

コメント

  • コメント (0)

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

最近の記事

  1. 法定休日と所定休日

書籍のご案内

『「特定技能」外国人雇用準備講座〜特定技能外国人を採用する前にチェックしておきたい50項目〜』




  代表の長岡が建設分野の解説などを執筆しています。